第29話 共闘

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 結鶴が鈴の実家の玄関に上がると、フライドポテトの匂いがした。


「鈴、着替えてきなさい」


「このままでいい」


「普段は部屋着だろう?」


「・・・・・・着替えて良いかな? 結鶴君」


「別に? ベイカーの家だから、好きにすればいい」


 鈴は「そう」と言いながら、奥の方へと消えて行った。


「鈴は一人娘でね、私も大事に扱いたい」


「分かります」


「その若さで?」


 そこを突かれるとなぁ?


「Kaoru! Leave in the fish and chips and tee in the room! (薫! フィッシュアンドチップスと紅茶は部屋に置いといてくれ!)」


「あなたぁ! お客さんですか?」


「It`s Rin`s boyfriend.(鈴のボーイフレンドだ)」


 それを聞いた、薫と言われた、鈴の母親は一気に廊下を駆けだす。


 マンションなので、下の階に響くと思われるが・・・・・・


「珍しいわねぇ、鈴が男の子を家に連れて来るなんて? 外では結構な付き合いをしているそうだけど?」


「はぁ・・・・・・」


「あなた、大事な話?」


「That`s right. Don`t ever go in. (そうだ。絶対に入るな)」


「分かりました、その子を虐めないでね?」


 その後に薫は「いけない、いけない、フィッシュアンドチップスが!」と言って、再び駆け上がる。


「すまないな?」


「英語と日本語で交互に会話するんですね? 鈴さんの英語が上手いのも納得がいきます」


「君の英語の発音も中々の物だ。イギリス人の私からすれば、アメリカンイングリッシュのアクセントが気に入らないが、ネイティブと言っても、過言ではない発音だ」


「途中でスペルと文法を忘れることがあるんですよね? 大学の勉強があるから、何とか話せますけど?」


「まぁ、ここで君と英語の勉強論を語るつもりは無いが? 次期会長の君に聞きたいが・・・・・・部屋で話そう」


 そう言った後に結鶴はネビルとある一室に入る。


 ネビルの一室には多くの洋書や化石と思わしき石の数々や戦闘機のプラモデルに最新からレトロまで取りそろえたゲーム機にこれまた、最新のパソコンがあるという、まさに趣味人全開な部屋だった。


「銃は人目に付かないところに隠してある」


「奥様はあなたの正体を知っているんですか?」


「仕事の話はした事は家族に今まで一度も行ったことは無いが、薫は薄々感付いているだろうな? 現にさっきの騒動で鈴にまで正体が知られた。これがロンドンに知られれば、私は工作員の任が解かれるだろうな?」


「あなたはスパイにしては情に厚い方だと思えます」


「Kaoru! Hasn`t the tea come yet? (薫! 紅茶はまだ来ないのか?)」


「今、持ってきますぅ!」


 そう言って、薫はまた、走り出す。


 典型的な亭主関白のイギリス人亭主と天然気味の奥さんか。


 表面で見た感じでは良い家族といった感じだが?


 すると、ドアが開く。


「紅茶よ?」


 香りが香しい。


「紅茶は好きか?」


「普段はコーヒーで本格的に紅茶を飲むことが早々ないですが・・・・・・というよりはアールグレイしか種類を知らないので?」


「率直だな? 気取る学生はそこで見栄を張るが、君は好きなタイプだ。ちなみにそれは最高級のダージリンだ。飲め」


 自分の食事に関する教養の無さが中佐には高評価を受けたようだな?


「ここから仕事の話だ、秋山君。単刀直入に言うと、黒陽会が持っている中国の情報を我々、MI6に渡してもらいたい」


「見返りは?」


「君らの体制保障とビジネスにおける資金援助と犯罪シンジケート構成の黙認等々、ラングレーの連中よりも手厚い保証と支援をするつもりだ」


「失礼ながら、中佐はそのような権限をお持ちですか?」


「あぁ、ロンドンにもそう伝えておくよ」


 微妙なところだな?


 相手は一介のスパイだ。


 鈴の父親と言っても、基本的には人を騙すことなど造作は無いはずであり、交渉の如何によっては自分たちがMI6にいい具合に使われるだけ捨てられる、ボロ雑巾のような扱いを受ける可能性がある。


 元来、イギリスというのはそういう国だ。


 極東の島国のヤクザなども簡単に捨てられるだろう。


 それに米軍に関連する民間軍事会社は裏で日本国内のヤクザに銃器を横流しする事が多々ある。


 正規軍ではなく、軍属扱いの荒くれ物の集う、傭兵風情の連中の仕業なので、その付き合いを無視して、MI6と共闘関係を結ぶのは後々に波紋を広げる可能性がある。


 だが、それでも、今は窮地を脱さなければならない。


 あとで会長に報告だな?


「それは会長に報告しますが、条件があります」


「何だい? 秋山君」


「我々は日本の名門大学に違法薬物を流通させていた、刑罰会という半グレ組織の壊滅を狙っています」


 ネビルは天を仰ぐ。


「あそこは中国の裏資金ルートにも関与しているからな? そこを潰すとなると、我々の国策にも良い影響が出るな?」


「お願いがあるのですが、日本政府に対して、我々の行う、抗争に関しての介入を止めるように圧力を仕掛けて欲しいのです」


 ネビルは渋い顔をする。


 無理難題だ。


 いくら、準同盟国とは言えど、日本政府に対して、ヤクザの犯罪を黙認するように圧力を仕掛けるなどは内政干渉に当たる。


 何よりもイギリスは今、EU離脱の影響で国力は衰退して、日英同盟構築において日本は重大なお客さんなのだ。


 そして、今のイギリスは労働党政権だ。


 アメリカのように堂々と圧力をかけることなどは難しいかもしれない。


「イギリスの現在における、状況が理解出来ているのか? 秋山君?」


「それが出来なければ、俺は犯罪者として警察に出頭する。そして、あなたの娘が悲しむ」


 それを聞いた、ネビルは「私の娘をダシにするか? 誉め言葉だが、君が極道である事を痛感させられるよ」と言ってきた。


「良いだろう。何だったら、武器を提供しても構わない。チャレンジャー2などの戦車は用意できないが、良いな?」


「それはジョークですか? 小火器だけで良いですよ。あわよくば、対戦車ロケットもあればーー」


「対戦車ロケットは必要ないだろう? 刑罰会は武装こそしているが、戦車は持っていない・・・・・・小火器で良いか?」


 ネビルが近づく。


「たらふく欲しい」


「分かった、決定だ。ただし、約束は守れよ」


 そう言って、ネビルが紅茶を飲む。


 結鶴も紅茶を飲むが、品位のある、香りが口内と鼻腔に広がる。


 これが本格的な紅茶か?


 ペットボトルの紅茶とはワケが違うな?


「ご飯よぉ!」


「さぁ、秋山君。フィッシュアンドチップスの時間だ」


 そう言って、ネビルが立ち上がる。


 結鶴もそれに付いて行き、部屋を出るが、そこでジャージ姿の鈴と会う。


「似合うじゃないか?」


「ジャージ姿でそれ言われたの、初めてだよ」


 鈴は赤面する。


 家の中では油の匂いが充満していた。


 続く。

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