《日本転生?偽装者の異文化日常》
@Liwx
第1話 新しい生活
「悠真、ご飯よー!」
松本さんの声が階下から聞こえてきた。
「ああ、今行く」
服をきちんと着て、急がずに返事をした。
ほどなくして、僕と松本さんは食卓に向かっていた。
「あら、今日は新しい学校の日だね。緊張してる?」
松本さんが手に持っていた牛乳を置き、笑いながら言った。
「いつの間にか、うちの悠真も高校生かあ!」
「別に。いつもと変わらない気がする」
僕は俯いて朝食を食べながら、淡々と答えた。
「あらあら、相変わらずね。前はあんなに明るかったのに、どうしちゃったのかしら」
「今の僕の方が悪い?」
少し間を置いてから、自然な流れで松本さんを見た。
「そういうんじゃないんだけど…悠真、ずいぶん大人びちゃったよね。それに、たまに前とは違うことするし。朝から運動したり、料理の勉強したり…変な本読んだり、変なもの書いたりしてたよね」
松本さんは首をかしげながらそう言った。
「でも…やっぱり今の悠真の方が好きかな。格好良くなったし、大人みたいで安心感あるもの!」
「褒めてるってことでいいんだよね」
僕はしぶしぶそう言った。
「うーん、そこがちょっと嫌なのよ。大人になったけど、人に対して冷たくなった感じがする」
「ちゃんと返事はしてるでしょう…」
表情は変えず、淡々と答えつつも、心の中では少し波立っていた。
「ほら、またそれ!」松本さんは僕を指さし、少し怒ったように言った。「人にはちゃんと向き合って、もっと感情を込めて答えてよ。空気冷めちゃうから、そんなんじゃ女の子も悠真のこと好きになんないわよ」
仕方ない。元々の僕の癖なんだ。
それに…ほっとした。
「わかった。気をつけるよ」
「うんうん、それでこそ!人には優しくね!」
松本さんは僕の本心を察したように、満足そうにうなずいた。
〈前の接し方を直すか…時間かかりそうだな…〉
そう思いながら、再び朝食に集中した。
……
「じゃあ、行ってきます」
「はい、気をつけてね、悠真!」
手を振り返すと、学校の方へ歩き出した。
僕の名は松本悠真。ごく普通の日本の高校生だ。
信じてもらえないかもしれないが、僕はこの松本悠真という体に“転生”してきた。
元々は中国の大学生だったが、交通事故で命を落とした。
気づいた時には、この少年の体の中にいた。
ネット小説みたいな“転生”とは違い、魂だけがこの体に宿っただけだ。
システムも、チート能力も、桁外れの力もない。それどころか、この体の元の主の記憶さえ、何一つ持っていない…
正直、中国の小説みたいな世界だったら、とっくに〈人生をリセット〉してたと思う。
幸い、異世界やモンスター、魔法の世界に行かず、ここは元々の世界。ただ日本に来ただけだった。
とはいえ、面倒は山ほどあった…
文化の違いはもちろん、言語の問題だけでもかなり大変だった。
大学で日本語を専攻していたし、アニメもよく観ていたので、基礎的な会話はできた。
だが、所詮は外国人の日本語。学習レベルと文化的ギャップは埋めようがない。
だから最初は平静を装い、基本的な日常会話でやり過ごしながら、必死で日本語を学んだ。
一年経った今では、不自由なく会話できるようになった。
最初、最も大変だったのは彼らとの会話、特に松本さんとのコミュニケーションだった。
自分の子供に異変が起きたら、どんな親でも動揺する。僕のように、前と後でこれほど変化したら、どんな人でも違いに気づく。
その後、様々な検査を受けたが、医者にも原因はわからず、「脳の防御機制」として片付けられ、休養を勧められるだけだった。
松本さんは悲しんでいたが、静かに我が子の変化を受け入れた。
そして僕も努力を重ね、松本さんの信頼を勝ち取り、疑念をほぼ解消させた。むしろ、だんだん気に入られるようになった。
どんな親でも、子供が優秀になれば喜ぶものだ。
一年かけて、僕は彼の生活に完璧に溶け込んだ。
元の交友関係に戻るのは色々大変で、周りも変化を訝しんだが、どうにか受け入れてもらえた。
こうして、波乱万丈の末、新たな人生をスタートさせた。
ただ、正直言うと、日本の生活は想像とかなり違った。
勉強に関していえば、日本の学習内容は初めてだったが、前の人生での学習経験と論理的思考でコツを掴み、半年で中の上だった元主を学年トップに引き上げ、地元の高校に合格した。
周囲、特に松本さんは驚いていた。
たった半年で優等生に変貌するなんて、松本さんには想像できなかったし、元の悠真にも不可能なことだった。
彼女の目には、悠真は良い子だが、成績は平凡と映っていた。
だから僕が初めて学年一位を取った時、冗談だと思ったほどだ。本当だと確認した後は、病院に連れて行かれた。
結果は言うまでもない。健康そのものだった。
松本さんは半信半疑だったが、悠真の大きな変化を受け入れた。
自分の子供が優秀になるのは、悪いことじゃないからね。
周囲の反応は特に気にせず、「急に目覚めた」と説明した。
彼らも納得はいかなかったが、それ以上の説明は思いつかなかったようだ。
……
30分ほど歩いて、ついに入学する学校に着いた。
「青嵐高等学校…」
正門前で立ち止まり、校舎を見上げる。
学校は日本的なデザインの中に、西洋の建築様式が少し取り入れられていた。
〈ここで三年過ごすのか…〉
そう思いつつ、構内に入った。
学校は広く、以前通っていた中学校よりずっと大きい。
校内の環境は言うまでもなく、風景が美しく、整然としていた。
特に印象に残ったのは、正面入口の噴水だった。
間もなく、職員の案内で講堂へ向かい、入学式に臨んだ。
校長はスーツ姿の、教養のありそうな中年男性だった。
校長の式辞で、少しずつこの学校への親近感が湧いてきた。
式辞の後、司会の教員が続きの進行をし、あっという間に入学式は終わった。
その後、職員の案内でクラス分け発表を見る。
新入生が多いので、皆が見終わった後に自分の番を確認しに行った。
「1年A組…」
つぶやきながら、自分の教室へ向かった。
教室に入ると、既に多くの生徒が話し始めていた。
騒がしい中、自分の席を見つけ、近くの数人と少しだけ会話した。
ちなみに、僕の席は後ろから二列目の窓際…なんだかアニメの主人公みたいだ。
「はい、全員席についてください。これからホームルームを始めます」
先生がドアを開け、皆を着席させた。
クラス担任の先生は若い女性で、卒業したばかりの大学生かと思われる。整った顔立ちと上品な装いが、気品を感じさせた。
「今日から、私が皆さんの担任を務めます。本校ではクラス替えがありますが、担任は変わりません。つまり、私は皆さんのうち、何人かの三年間の担任になります。どうぞよろしくお願いします」
「高橋優子と申します。数学も担当しますので、『高橋先生』と呼んでください。何かあれば職員室まで来てください。いいですか?」
周りに合わせて、僕も理解したようにうなずいた。
その後、高橋先生は学校の指示に従い、関連書類や校則の説明をした。
次に、担任と上級生の案内でキャンパス内を見学した。これだけで午前中の大半が費やされた。
……
「さあ、静かにしてください。これから自己紹介を始めます!」
見学が終わり、教室に戻ると、高橋先生が次の流れを始めた。
「では、私から」
最初に立ったのは、左前列のハンサムな男子生徒だった。善意に満ちた笑顔が、爽やかな印象を与える。
「みなさん、こんにちは。田中翔太です。翔太と呼んでくれて構いません。性格は…まあ明るいほうです、友達にもよく言われますから。サッカーが好きで、サッカー部に入ろうと思っています。将来の夢はまだ決めてませんが、スポーツ関連の仕事に就きたいです。それと、同じクラスになれて本当に嬉しいです!皆さんと仲良くなって、楽しい高校生活を送りたいです。よろしくお願いします!」
〈日本の漫画に出てくる熱血少年みたいだ。主人公のような感じで、明るいから人気出そう…〉
案の定、教室には暖かい拍手が起こった。
「じゃあ、次は私で!」
次に立ったのは、可愛らしい女子生徒だった。長い黒髪と生き生きした笑顔が、男子の心をくすぐる。
もちろん、僕は含まれない。
「こんにちは、冬雲七海です。趣味は絵を描くことと歌うことです。あと、友達と遊びに行くのも好きです。同じクラスになれて嬉しいです!みんなと仲良くなりたいです。よろしくお願いします!」
〈可愛らしくて明るい。女子の中心人物になるだろう…男子は…もう落とされそうだな〉
見える範囲の男子は、皆冬雲七海に目を向けていた。
その後、クラスメイトが順番に自己紹介を始めた。
陽気な者、内気な者、無表情な者、笑いを誘う者…様々だった。
「はい、では最後の生徒、自己紹介お願いします!」
高橋先生がそう言い、僕に手を振った。
ゆっくりと立ち上がり、話し始めた。
「えー…みなさん、こんにちは。松本悠真です。本を読むことと映画を観ることが好きです。暇な時は散歩したり、ジョギングしたりしてます。それと、みんなと仲良くなって、楽しい学校生活を送りたいです。よろしくお願いします」
簡潔な自己紹介を終えた。
驚いたことに、皆の反応は悪くなかった。温かい拍手をもらった。
「はい、松本君ありがとう。では自己紹介はこれで終わります。次は教科書や必要な物品の配布がありますので、何人か手伝ってくれる人を募集します。希望者はいますか?」
高橋先生が話を受け、手伝いを求めた。
すぐに数人の生徒が手を挙げ、先生は最初に自己紹介で盛り上がった数人を選んだ。先ほどの田中と冬雲もその中にいた。
必要な物品が配られ終わると、高橋先生は学校の基本ルールや注意事項を説明し、学校についてさらに理解を深めた。
「では、今日のホームルームは以上です。不明な点があれば職員室まで来てください。終わります」
ちょうどその時、チャイムが鳴り、午前中の全ての活動が終了した。
そして僕は、新たな生活が始まったことを実感した。
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