第12話 手のひらの温度
静かな住宅街。そこに聳える大きなマンション。
その一室にその者は足を急ぐ。その匂いを頼りに。4階。407号室。ここからだ。
あの女は一体何を目的に、ここまで場所を転々してるのかと疑問に思う。だがそんなことは置き去りにしてその中に侵入した。
「…!!」
目に入る光景は一人の男。
横になりながらテレビを見ている。
そこに堕天使の姿はない。その主人とやらがこいつか?いや、だとしたらいるはずだ。
「貴様は著者か?」
男は突然聞こえた声に小さな悲鳴をあげる。
固まり、何も答えない。ゆっくりと姿勢を直す。
「貴様は著者か?」
再度問う。その凄まじい姿に物怖じする男。
「ち、著者って…?」
「図鑑を知っているか?」
「図鑑ってなん」
男の首が取れた。テレビの液晶に血痕が飛び散る
「あの悪魔…。」
しかし頭に否定の可能性が出てくる。
それは堕天使を求む故の根拠ある理由。
「…あいつは"欺き"だったな。楽しませてくれるじゃあないか。」
血の海と化した部屋にその者の笑いが響いた。
「あ〜あ。折角現界したのにすぐこっち戻ってきちゃったぁ〜。それもこれも全部、さとみがみんなのことたぶらかすからだ!」
ここは夢世界。夢魔が主体となる幻想の空間。
「っごめんってば。」
そんなことを言いくせに男も止めたりしない。
雲のようにふかふかなベットが大きな部屋一面。
部屋といっても壁がない。青空に包まれたような空間にある。薄ピンク色のベットを囲むのはエメラルドのように輝き透き通る小川。まだらに散らばるパステルカラーの綿あめのようなクッション
まさに幻想郷そのもの。
その中で服を擦れ合わせながら、戯れる二人の男女がいた。
「服を着ながらって、アタシ一番好き。」
薄着のワンピースを着た女が言う。
「俺は汗かくから、やだかなぁ。」
「じゃあ、着衣入浴エッチは?」
そんなアイデアに男は笑った。
「あははっ、…、ありかも。」
「じゃあ、これシたら次それやろやろっ!」
二人の動きが激しくなる。愛を確かめ合うように、体に触れ合い、擦れ合い、キスを交わす。
「はぁ、…っ、あはっ、やっぱりさとみのは、はっ、あったかいなぁ。」
頬を染め、息が荒いまま女は喋る。
男は微笑み、返した。
「昔そういえば、聞いたことある。」
女の手を握る。
「手が冷たい人は、心があったかい人だって。
…どう思う?」
「今運動したんだから、あったかいに決まってるぞ〜。」
女はムッとしながら弁明した。
「違うよ。そういうことじゃない。」
下らない話だと思わないか、と男は問う。それに女は言った。
「人間は常に表裏があると思いたい生き物よ。」
男の手は冷たくも温かくもなかった。
「放せよっ!」
男女は声のする方を向く。二人の右側からだ。
そこには人間の男が鬼の血相で迫ってきていた。
「…あれは〜、龍馬かな?」
男は先程の記憶を引っ張り出す。
「むむ〜!?もしや、夢世界来れちゃったの?」
そう言い、女は男から降りて服を直した。
笹原は轟の如く大きな声で叫ぶ。
「おい夢魔ぁあ"ぁああ"ぁあぁ"!?!?」
開き直ったのか後ろから堕天使もズカズカと来た。笹原は止まらない。
「よ"くもさとみ君とセ*クスしやがって、
アァ"!?夢魔だからって許さね"ぇ"!!!」
天使がやれやれ顔で最後に出てくる。
「なあ堕天使、やっぱ龍馬を夢媒体にするのは今回の作戦において一番のミスだったと思う。」
そう天使は言ったが、独り言になってしまった。
「なにかなぁ?ただの愛の営みだよん。」
バーカと煽る夢魔。その隣にはさとみが立っていた。乱れた服装にトロンとした目つきをしている。一直線にさとみ目掛けて強歩する笹原。
が、一定の距離に立った時天使は全力で止めた。
「安易に近づいたら何するかわからないぞ。」
そんな冷静な天使に堕天使も我に帰る。
「っ!そうです。ここで笹原様が殺されれば一生、夢世界。恐らくあの夢魔に飼われますよ。」
瞬時に頭を冷やす笹原。歯をくいしばる。
「よくここまで来れましたな〜3人とも。
おめでたいし、皆で乱交パーティーでもする?」
夢魔の発言に気まづくなる中、笹原は加速する。
「お前と天使共抜いたらしてやってもいいよ。」
「も〜〜〜!リョーマ?リョーマはさとみ好きなところ以外は本当タイプなのになぁ。」
呆れる夢魔の隣で男が口を開く。
「龍馬は俺とヤりたいの?いいよ。」
Tシャツを捲り、誘う。夢魔は口を膨らませた。
「大丈夫だよ。どっちが上でも下でも。
あ、だけど…上はあんまり慣れてないかも。」
色気のある目に笹原は揺らぐ。
「…っ、ちゃんと愛のある行為。ここから出した後、教えてあげるから!」
主の合図と共に天使たちは一斉に取り掛かる。
堕天使が言うには
さとみ君を夢世界から戻す方法は一つ。
夢魔を退治すること。殺すか、観念させてさとみの体を返してもらうかの二択。
「笹原様の体を現実世界に置いたまま、私達が精神だけを夢世界に持っていきます。」
そんな堕天使の説明を理解できない笹原。
「夢を見てもらいます。夢魔がいる夢世界は上にいけば繋がっています。ですから、夢の中の笹原様を体と切り離し、私たちが上へと運び夢世界に侵入させるんです。」
「いわゆる幽体離脱ってやつだな。」
必死に説明する天使達。そこに笹原はツッコむ。
「え、天使二人が夢世界まで運べるくらいなら、最初から二人で行けないの?」
天使は堕天使の顔を見る。堕天使は溜息をつき
「それができたら私こんなとこで話してません。」
念を押して再度説明しだした。
「夢世界は私達天界の者が立ち入ることができません。人間が見る夢から成り立つものであり、幻想の空間だからです。ですので、笹原様の夢を通して見ないと、夢世界も本当は見えないんです」
「夢世界と俺が見る夢は違うの?さっき繋がってるって言わなかった?」
天使はその質問に紙とペンを使って答える。
「世界はこのような構成になってます。」
ペンを走らせ、3行文字が書かれていた。
天界
夢世界
現実世界
「正確には、最終的にってことです。これは現実世界で笹原様から発生した夢。これを一つの塊とします。そして、本来なら時間などで笹原様が目覚め、笹原様と夢は離れる。そしてこの夢は上にある夢世界へと吸収されるんです。」
笹原に電球が光った。
「ああ!てことは目覚めないで、俺と俺の夢をくっつけたまま、天使達が夢世界へと運ぶってこと?」
堕天使が頷く。そこに天使が付け足した。
「だが…俺たちにそんなことできるのか?
人間の精神だけを切り離すなんぞ。」
堕天使は人差し指を立ててながら言う。
「できますよ。シエナ様が先程いった幽体離脱。時に人間がいうじゃないですか。"三途の川を見た"って。あれを利用するんです。」
天使の顔が曇る。
「龍馬を瀕死の淵に落とすつもりじゃないよな?」
「違いますよ。俗に言う"三途の川"っていうのは、あれ本当は人間の体と精神(魂)が切り離されてる状態のことを言うんです。」
そして堕天使は笹原に向かって注意深く警告する
「今から、行うのは少し危険なことです。
一時的に笹原様を不安定な空間に連れて行くことになります。生と死の狭間と同等のところです。
夢世界にいっても強い自我を持って下さい。」
そんな力強い言葉に笹原は真剣な顔で答える。
「さとみ君のこと考えてれば、一生自我保ってるから大丈夫。」
堕天使はなんとも言えない顔をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます