人数制限

@yana_1018

『人数制限』


「あの土地にはな、3人までしか住めねぇんだよ」


「また、バカなこと言って」


「ほんとだって!考えてもみろよ」


「なにを?」


「あの家の嫁、3人目を流産したろ?」


「そりゃあ、そういう事もあるでしょうよ」


「旦那も出て行っちまって、今は母娘3人暮らしだ。」


「だから?」


「その前に住んでた家族も3人だった」


「でも、そのご家族は何事もなく引っ越したじゃない」


「…増えなかったからだよ」


「よしてよ」


「メダカでも金魚でも、小せぇ鉢で何匹も増えねぇだろ?あれとおんなじだよ」


「それなら都会の高層マンションなんかどうなるのよ、狭い土地にいっぱい住んでるでしょ」


「そこは、ほら、なんか、エネルギーが多い土地なんだよ!」


「くだらない」


「あとあれだ、あれ!あそこにゃ元々、オスとメスの猫が1匹ずつ居たんだよ。それが仔猫が3匹産まれると、オス猫がふいと何処かへ消えちまった。その仔猫達も大きくなる前に1匹居なくなって、残ったのは母猫と仔猫が2匹だ」


「なんで他所の猫にそんな詳しいのよ」


「だあって、あそこのヒロちゃん猫の話ししかしなかったじゃねぇか」


「それはそうだけど…」


「な!?」


「もう、気味の悪いことばっかり言ってないで、早くお風呂に入っちゃって!」


「間違いねぇって!」



***



 あの家はもう、今は空き家だ。



 私は他所へ嫁ぎ、今は核家族で戸建ての賃貸に住んでいる。食べ盛りの息子が2人いて大変だが、充実している。


 あの家に戻れば家賃も要らないし、少しは生活も楽になるだろう。

 それでも、そうする気になれないのは、あんな話を聞いてしまったからだろうか?


 なんの根拠もない話だった。


 そもそも、あの話を聞く前から、私はもうここに戻ることはないのだと、家を出る時に確信していた気がする。





















『さあ、壊して』


「でも、もし人間だったら」


『大丈夫、君が造った』



 ―白磁の人形、人間?


 顔にヒビがある、人間の訳がない。



 斧



 木の柄に手をかける。塗装が剥げて、ザラザラしている。持ち上げると、刃の重みで振り子のように揺れた。


 腕が痛い、ダルい。左手で柄の端を掴んだまま、右手を刃の近くまで滑らせる。


 そのまま頭上に持ち上げた。



 ―重い。








 人形は、3体まで。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人数制限 @yana_1018

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画