第6話

 その写真を、メリアは事あるごとに見返している。 

 かつて、ガリェーチンが所有しているスーナの別荘を訪れた時に撮られたものだ。

 椅子に深く腰掛けているメリアと、彼の膝の上に乗っている八歳の彼女の姿が大きく手前に写っている。二人でカメラマンに顔を向け、彼女は少しはにかんだように控えめな笑みを浮かべている。一方メリアは、眼鏡のレンズが反射していて目から表情は読み取ることは出来ないが、彼女の身体に回している右手が、服の下で踊るぴちぴちした肉体を感じて内心うきうきしていたことを覚えている。

 奥の方では、テーブルの上に紙きれが散らばっていて、その後ろでガリェーチンが下を向いて何かを読んでいる。そして、ガリェーチンの隣にはもう一人男がいて、ヘッドフォンで音楽を夢中になって聴いていた。

 この時から二十数年経った。

 当時は彼に近づくことだけで精一杯だった。あの男だけをどうにかすれば良いだけだった。

 しかし今、彼はもういなくなった。

 もう何も遠慮は要らない。二人の間を邪魔する奴はいない。

 彼女は、そしてこの国のすべては、近く自分のものになる。

 この世界で君を一番愛しているのは私であり、君に必要なのは私なんだ。  だから、安心して私の胸に飛び込んでおいで……。

 

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