バイトの子が元異世界転生者かもしれない

@AACm

魔女のコックと普通の店主

「焼きたて餃子一つ!」


「はい!ゼル・ファイア!」


 ここは俺と彼女の個人飲食店。「彼女」と言ってもそういう恋愛的な関係ではない。今日も彼女は厨房で手から火を出して餃子を焼いている。なんで?


「ふう。苅野さん、お客さんさっきの方で最後なので〆作業しちゃいましょう!」


「稔ちゃん。異世界に行ったことってある?」


「え?」


 目をキョロキョロさせながら焦った早口で何か言ってる稔ちゃん。今日も平和。今回はそれで良しとしよう。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 私の名前は「佐藤 稔」あれは高一の夏、私はトラックに轢かれて異世界で生まれ変わった。あっちの世界で「全ての物を蹂躙する力」と「不老不死の体」を手にした。ある日の朝、気づいたら異世界の体で元の世界に戻り、行き倒れそうな所を・・・。


「どうしたの?急に黙り込んじゃって。」


「わあっ!もう、急に近づかないでください!」


「わああっ!っと、ごめんごめん」


 この店の店主の苅野さんに拾われた。一応命の恩人なんですよね・・・。


「大丈夫ですか?お怪我は・・・。」


「大丈夫、大丈夫。」


(でも、せっかく手に入れたこの生活。それを守るために、)


(稔ちゃんは絶対何か隠している。彼女は17歳。仮とはいえ保護者として、)


「じゃ、テーブルの掃除お願いできる?」


「わかりました!」


(守ってみせる!!)

(暴いてみせる!!)


「「その真実を」」


 二人の口からこぼれた気持ちは相手も本人にも聞こえなかった。

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