5章:飛翔

風が体を貫く。光と影、白と赤、熱と冷。

すべてが交錯する中、一人は立っていた。


鳥籠はもう、存在しない。扉も鎖も、見えない監視の目も、影も――すべて遠くに置き去りにされた。


「飛べるのか?」

かつての自分が問いかける。答えは胸の奥の鼓動にある。


一歩、また一歩。足が地面を離れ、体が宙に浮く。

羽ばたく音はないが、風と鼓動が飛翔を告げる。


白と赤、光と影。すべてを抱えたまま、一人は空を切る。

理性の檻を抜け、孤独と衝動をともに味わい、ついに「人」として立ち上がる。


目に見えない世界も、流れる時間も制約ではない。

一人は自由だ。完全な自由の中で、ただ「自分」であること――それが飛翔の意味だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『一人の旅』 rhythm @rhythm5575

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画