Mission 003 地上への浮上と学園との邂逅。


 ――地上に出るのは、初めてだった。


 少なくとも、“ボク”として目覚めてからは。



 地下室の階段を上がる度に、空気が変わっていく。湿ったコンクリートの匂いから、少し埃っぽくて、でもどこか甘い――“人のいる場所”の匂いへと。


 最後の一段を踏みしめた時、目の前に広がったのは、白く光る廊下と、窓の向こうに揺れる木々の影だった。



「ようこそ、地上へ」


 菜花なのかが、ボクの隣で微笑んだ。


 同じ顔、同じ声……


 でも、彼女の笑顔はボクにはまだできない。


 ここが学園。――私立大和やまと中等・高等学園。


 制服を着た生徒たちが廊下を行き交い、教室の中からは笑い声や机を引く音が聞こえてくる。――騒がしい。けど、何処か懐かしい。


「ねえ、千歳ちとせ。怖くない?」


 菜花が、そっと尋ねてくる。


 ボクは、少しだけ考えてから、首を横に振った。


「怖いけど……逃げたくない」


「うん、それでいい」


 菜花は、ボクの手を握った。


 その手は、少し汗ばんでいて、ボクと同じように、緊張しているのがわ

かった。



 案内されたのは、旧校舎の三階――


 廊下の奥にある教室の扉を開けると、そこには、迷彩服のままの美路みちが待っていた。


「おかえり、二人とも。  ここが、君たちの新しい拠点だ」


 窓からは、午後の陽射しが差し込んでいた。


 埃の舞う光の粒が、まるで星のように揺れている。とても、明るい場所……


「ここが……ボクたちの場所?」


「そうだ。ここから始めるんだ。〝情報屋稼業〟の新しい章を」


 美路の声は、何処か芝居がかっていたけど、その奥にある本気は、ちゃんと伝わった。


 ボクは、窓の外を見た。


 グラウンドでは、誰かがボールを蹴っている。笑い声が、風に乗って届く。


 ボクには、あの輪の中に入る資格があるのだろうか? 〝戦うこと〟しか知らないボクが、〝生きること〟を学べる場所なんて、本当にあるのだ

ろうか?


「千歳」


 菜花が、ボクの肩に手を置いた。


「ここは、戦場じゃないよ。でも、ボクたちが生きるには、ここで戦わなきゃいけないこともある。だから、まずは――知ろう。この場所を。人

を。自分を」


 ボクは頷いた。


 まだ、わからないことだらけだ。


 でも、ボクはここにいる。地より湧きたち、もう一度、歩き始めた。


〝ボク〟として、生きるために。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る