第一話 ……千歳。

Mission 001 雷轟く雨の日に、蠢く都市伝説。


 ――例えば、ここ。


 とある学園の知られざる地下室。


 白い光に包まれたその空間で、ボクは目を覚ました。



 眠っていた時間は、三万年にも感じられた。


 けど、実際は――ほんの刹那だったのかもしれない。


 腹部に、痛み。


 ナイフで刺されたような感覚。


 ただ、記憶の奥に焼きついた痛みだけが、ボクを締めつけていた。



 ボクは誰?


 なぜここにいるの?


 何をしていたの?


 何度も記憶を辿ろうとする度に、頭痛が襲ってくる。


 まるで、思い出すことを拒むように。



 鏡に映る自分は、栗色のボブに青い瞳。


 色白の肌。小柄な体。


 ――異国の血が混じっているのかもしれない。


 でも、それすらもわからない。



 名前は、千歳ちとせ


 それだけが、唯一与えられた情報だった。



 そして、軋む音。


 地上から誰かが降りてくる。



「よお、元気そうだな。良かった、良かった」



 迷彩服の女が、笑いながら現れた。


 彼女は中村なかむら美路みち――この施設の管理者らしい。


「大雨だよ、急に降り出してな。ほれ、食料と着替え。シャワー浴びてこい。千歳、そうだな、それしかわからないな。お前が女の子ってこと以外は」



 ボクは、まだ〝ボク〟を知らない。


 でも、きっとこれが始まりなんだ。


 ボクが、ボクになるための――再起動の物語。



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