実のらぬまま咲いた花。

花藍81。

1話 ワスレナグサ


 宮園 想与そよは、人に自分の気持ちを伝えるのが苦手だった。それは…幼少期の頃のトラウマが関係している。


 そんな彼女にも気になる異性が居た。

 同じクラスの神宮 優磨だ。

 彼は想与の言葉の奥にある本当の気持ちに気が付いている唯一の友達だ。


 ———あいつ…まだかな…。


 そう思った途端。後ろから声を掛けられる。


「ごめん。待った?」


 思わず上がった口角を下げ、「待ってない」そう言おうとする…


「遅すぎるわよ。私を凍死させるつもり…?」

「はは…申し訳ない…。」


 ああ…またやってしまった。想与はそう思う。別に優磨は遅れてなどいない。

 想与が、クリスマスデートだからと張り切ってしまい、家を早くに出てしまったのである。想与もそれを頭の中では理解していた。


 …しかし、口が悪くなってしまう。これは、想与の気持ちと反比例するかのように、出るものなのだ。本人にも止められない。


 そんなことを考えていると、頬に暖かい物が当たる。


「ちょっ!何よ…!」

「これ、ホットコーヒー。ほら、想与のことだから遅れないように早く来てるかも、そう思ってさ。買って来たんだ。」

「…あり…それなら、早く来なさいよ!馬鹿じゃないの!」

「うぐ…確かに…!」


 すると、優磨が想与の手を見て大声を上げた。


「ちょ…!手真っ赤じゃん!手袋は!」

「…あんたに関係…」

「関係ないことはないよ!ほら!手袋買いに行こ!」

「ちょ!手!」


 優磨は想与の右手を引いて走り出す。と言っても周りに人が多いため小走りであるのだが。


「優磨!」

「…どうしたの?」

「手袋は…大丈夫。」

「え…でも…」

「その変わり…!」


 さっきまで寒かったのが嘘のように身体が熱い。

 想与の顔が真っ赤なのは言うまでもないないだろう…。


「…その変わり、このまま手を握ってくれる…?」

「え…」


 優磨の驚嘆の声など無視をして、そのまま続ける。


「左手は…コーヒーで暖かいし…右手だってあんた…優磨と繋いでたら暖かい、それに…」

「それに…?」


 優磨は恐らく続きの言葉も、想与が無理して言おうとしていることも理解していた。

 …それでも想与に言わせようとするのは、を作ってあげるためであろう。を。


「…っくぅ…私、優磨と手を繋ぐのが…好き、だから。」


 恥ずかしくて、優磨の顔は見えなかったが、なんとなく笑っている。そんな気がした。


「想与…」

「優…磨…」


 目を瞑り、自分の顔を優磨に向ける。


「やっぱ、寒いだろうから手袋は買おう。」

「…馬鹿〜!!!」


 …これが、最初で最後の『正直な気持ち』を言えた瞬間であった。






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