契約

玉櫛さつき

プロローグ

 プロローグ


空が泣き出しそうだと思うくらい濃いグレーの雲が、どんより拡がった、ある日の午後、その女性は街外れの古い骨董店とおぼしき店を訪ねた。

「こんにちは」

ギイギイと軋む木製の薄いドアを開けながら女性は店に入った。


「いらっしゃい」

黒い服を着た初老の女性が声をかけた。

店内は照明がなく、道路際の窓が外からの光を取り込んで店内を照らしていた。

だが、こんな暗く曇った日は店内全体を見渡しづらい。

それでも女性は店内を見渡した。

目の部分だけ開いている黒い面が壁に掛けてある。

雑に縫われた、かろうじて人の形をした人形とまち針が数本入ったビニール袋、何処の国のものか解らない言葉で書かれた書物が数冊。

頭のてっぺんが丸くくり貫かれたドクロの置物。

本物とおぼしき干からびたコウモリが入ったガラス瓶等々、不気味な物がテーブルの上に乱雑に置かれている。

「ここが、どんな店か知っていて来たのかい?」

初老の女性が訊いた。

「ええ、まあ…だいたいは…あ、」

答えながらも店内を見渡していた女性は店の奥の角に置いてある、真っ黒なタイプライターを見つけて駆けよった。

暗い店内でもタイプライターは黒々と艶やかだった。

「それに用事があって来たんだね?」

「はい」

「あいにくと、それは売り物じゃないよ。使いたいなら契約書を読んで納得したならサインをして使用料を払って、この店内で使うこと。使用時間は三十分以内。いいかね」

「はい」



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