又十郎旅日記
飛鳥竜二
第1話 大坂夏の陣 No.832
空想時代小説
又十郎の名は、佐沼又十郎宗基(さぬままたじゅうろうむねもと)という。実は仙台藩の藩祖、千代政宗(ちよまさむね)の実子なのだが、わけあって親子とは名乗れず、母は家臣に下げ渡され、その後又十郎は佐沼家の養子となっている。生まれは1600年(慶長5年)、伏見の千代屋敷にて産まれている。母は、政宗の身の回りの世話をしていた華の舞である。実は華の舞は、元は太閤の側室であった。政宗の功に対して数ある側室の中から下げ渡されたのである。そういうことで、大名である政宗は華の舞を側室として迎えるわけにはいかず、身の回りの世話をする侍女として側に置いていた。だが、太閤が側室としていた女性ゆえ、その魅力に負け、ねんごろになり1女1男をもうけたのである。男子を産んだことで、政宗は家臣の鬼庭政元に華の舞を下げ渡すことにしたのだ。二人の子を実子として公表することは、大名としてはできなかったのである。そして又十郎が6才の時に、佐沼家に婿養子として入り、今にいたっている。姉は、原田家に嫁ぎ、後に千代騒動の主役となる原田甲斐の母となるのである。
今は1615年(慶長20年)、場所は大坂。戦国時代最後の大戦ともいえる大坂夏の陣の場である。
又十郎は、政宗の傍らにいた。重臣の千代成実(しげざね)、片倉小十郎といっしょである。政宗は長子秀宗がいるので、又十郎を実子としては言えなかったが、二人の重臣は鬼庭政元にあらましを聞いていたので、又十郎が政宗の隠し子ということを知っている。その場で知らないのは又十郎だけである。彼は、家臣の長子で、かつ初陣の自分がこのようにお館さまである政宗の脇にいられるか不思議であった。
政宗は、小十郎に
「小十郎、又十郎のことを頼む。戦(いくさ)の厳しさを教えてやってくれ」
と、申し伝えている。
そこで、又十郎は唯一の家来である足軽の半助を伴って、小十郎の陣に入る。
そして、最前線に配置されるのである。又十郎は初陣ということで小十郎の傍らに位置している。そして大野勢との戦いが始まった。最初は小十郎勢の鉄砲隊が撃ち込み、優勢だったが槍隊の戦いになると、大野勢が巻き返してきた。最後の戦いと思っているのか、がむしゃらにかかってくる。
そこで、小十郎も馬を駆り、戦陣の中に突入していく。又十郎も同じである。侍大将の小十郎がでてきたので、敵の足軽が槍を突きさしてくるが、又十郎は槍をたたき落とし、その勢いで相手を突き倒す。槍先だけが武器ではない。持ち手のところの金具も大きな武器となる。そこに敵の侍大将がでてきた。やたら強そうな侍だ。味方の足軽が何人もやられている。それに敵の足軽も引き、道すじを作っている。小十郎めがけて走ってくる。
そこに又十郎がさえぎる。敵の侍大将が足を止める。
「こわっぱ、じゃまするでない!」
「こわっぱではない。われは千代政宗家臣、佐沼又十郎お相手いたす!」
「ちょこざいな! われは大野治長家臣、中川隼人、わが槍の餌食にしてくれる」
と言い、槍を振り回してくる。周りにいた足軽連中がおそれおののいて体を退く。又十郎は槍の回転を見切って、一瞬の動きで間をつめる。そこに槍の中間が又十郎の鎧にぶち当たる。だが、又十郎は倒れなかった。
「お主、なかなかやるな」
と言って、隼人は槍を捨て、刀を抜いた。又十郎は短槍で応戦する。だが、3太刀で槍は折られた。隼人がもっている刀はやたらと太い。早くは振れないが、あたると破壊力がすさまじい。ガツンとくる。又十郎の刀は政宗から拝領した銘刀であるが、そんなに太くはない。おそらく刀と刀が触れたら折れるか傷つくであろう。又十郎は間合いをとって正眼に構える。
「ふふ、こわっぱ。わしに刀で勝つつもりか。逃げ出さないだけでも誉めてやろう。くらえ!」
と言って、大上段から振り下ろしてくる。すごい形相だ。だが、又十郎はおそれず右前方に足をすすめ、刀を横に払う。刀は隼人の鎧にさえぎられ、致命傷にはいたらない。隼人の刀は一度地面にまで落ちていたが、すぐに態勢をもどし
「こわっぱ、なかなかやるな。でも次はかわせんぞ」
と言って、今度は八相の構えから小さく撃ちおろしてきた。これでは避けられない。又十郎は刀で受けた。パキーン! という音ともに又十郎の刀が折れた。それで又十郎は両手で隼人の手をおさえる。だが、おさえきれない。偉丈夫の隼人の力で組み倒された。
二人で地面を転げる。隼人の刀は邪魔なので投げ捨てられていた。そして隼人が上になり、脇差しを抜こうとする。すると、隼人の表情が一瞬苦悶に変わった。そこを又十郎は見逃さない。とっさに自身の脇差しを抜き、隼人の首すじに刃を突き刺した。鮮血が噴き出す。隼人の体が崩れる。見ると脇腹には槍がささっており、その先には足軽の半助がいた。
重い隼人の体を押しのけると、半助が
「若、名乗りを!」
と言うので
「うむ、我、佐沼又十郎、中川隼人を討ち取ったり―!」
と叫んだ。その声を聞いて、近くにいた敵兵が退いていく。
「若、敵の首を」
と、また半助が言うので、又十郎は初めて首をとった。敵が退いていったので、小十郎勢も退く。もう一度態勢の組み直しである。又十郎は槍も刀もなくなったので、隼人の首をもって本陣に行く。政宗の前に出て
「敵の侍大将の首でござる」
と言って、おけに入れた首をさしだす。
「だれの首じゃ?」
「名乗りは中川隼人と申しておりました」
「ナヌ! 中川隼人とな。大野治長配下の豪傑じゃぞ、そやつに勝ったのか?」
「はっ、あやうきところを家来の半助に助けてもらいました」
「そうか、半助にもあとでほうびをとらそう」
半助は、本陣の垂れ幕の外でそれを聞き、涙を流していた。
政宗は又十郎に愛刀を授け、半助には銀一袋を与えたのである。
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