本編
テレビ「ルマ・リヤス(発端地域。ルマとリヤスは国境地帯の民族が混ざってる場所)紛争、両国の大統領によって終結が発表されました。両国の首脳は、ミル・メルバ(両国の大統領の名前)共同声明を発表し…」
主人公「…」
僕はこの時文学部の大学生だった。義勇兵になった男友達は戦場で死んだらしい。小麦が一時的に不足してどうなるかと思ったが、大国のゲルジ連邦の支援により一命を取り留めた。我が国の石油と食糧を交換してもらったそうだ。ミドラ国も別の大国、モル帝国に食糧支援されてたらしいが。戦時中、我が国にモル帝国の偵察機が来て萎縮しそうになっていたな…ゲルジ連邦もすぐさま対応したが。
大学にて
友達「ニュース見た?紛争終結の話」
主人公「…うん、見たよ。」
友達「平和になってよかったよね。テルマ君(義勇兵)は死んじゃったけど…」
主人公「…そう、だね」
すると痩せた男がやって来た。
痩せた男「よくないだろ。まだミドラ国の手先は残ってるんだぞ。」
友達「そうだけどさあ…でも仲良くできるならいいじゃん」
前に座ったミドラ民族の女の子は背を向けたままだった。
レストランで友達と昼ご飯を食べてた頃。
友達「…あ、めっちゃ人居る。」
プラカードを持った人たちが声高に叫んでいる。振動が店の中にも伝わりそうだった。
主人公「やっぱりそうなるよね…」
友達「あの人たちさあ…それが自分の首締めること、考えてないよね。今回一般市民が大きく損してないのはさ、運が良かっただけじゃん」
主人公「確かに。ゲルジ連邦が支援してくれたからだよね。次はないかもしれないのに」
店内から睨む視線がちらつくが、見なかったことにする。マッシュポテトとホワイトソースの味に集中した。…美味しい。毎回頼んでるけど。
友達「お会計、お願いします」
店員「あいよ」
出費が痛かった。戦争が終わってもお値段は据え置きか。これはバイト増やしてさつまいも生活だな。
家にて。僕はテレビをつけた。ワイドショーはつまらなくなったな。音楽番組でも見ようか。いや、勉強するか。読まなきゃいけない課題があったし。
次の日。街にある店の新聞記事が目に入った。
『ディア共和国・ミドラ国軍部トップのムラドとアルカ、解雇 両首脳が決定』
大学にて
教授(男)「やめなさい!このお馬鹿!」
生徒「黙れ!お前らは恥を知れ!」
何だろう。大体予想はつくけど。
生徒「お前も手先だろ!」
教授(男)「違うわよ!要らんことするなって言いたいのよ!」
生徒「ムラド(我が国の元軍部トップ)はやるべきことをした!それなのにこの国の大統領は…!」
ミドラ国(元敵国)には少数だが無視できない存在、ハサ民族がいた。たしか戦時中に独立運動を起こしてたな。モル帝国と一緒に鎮圧してたけど。
生徒「奴らは我らだけでなく、ハサの民まで抑圧している!彼らと一緒にミドラ国を打倒せよ!」
生徒2「そうだぞ!」
教授(男)「お黙り!あんたたち!」
生徒「なのにこの国の大統領は妥協した!」
ゲルジ連邦が戦後に、我が国に『平和を維持するようミドラ国と協力を要請する』と言っていたそうだ。
ルマ地区(ディア共和国のミドラ民族とディア民族の民族混在地域でミドラ国との国境地帯)でデモが起こったらしい。彼らは英雄(リドとレイ)が解雇されたことに反発し、英雄の顔を掲げて抗議した。これに我がディア共和国軍が鎮圧に向かったそうだ。ミドラ国は「平和に向けたディア共和国の行動に感謝する」と言っていた。反発を恐れた我が国の政府が、大統領官邸も厳重に警備したらしい。
リヤス地区(ミドラ国の民族混在地域)のディア民族はこの声明に反発した。「ディア共和国だけ損するのはおかしい」と。なんと、そこのディア民族は兵器を持っていたらしい。しかしさすがにミドラ国の訓練された正規軍にはかなわなかったそうだ。それからというもの、テロが増えた。我が国の弱腰を避難する声が高まった。我が国はまた非常事態宣言を出し、選挙ができなくなった。ミドラ国は例の感謝声明で、ハサ民族とディア民族から反感を買っているらしい。
新聞『ノルド国、利上げを協議』
ある日、リド元将軍が群衆の中で街頭演説をしていた。
リド「ミドラ国はおかしい。我らには自制を強いるが、自分たちは敵を抑えることしかしない。」
何故か警察が来なかった。今までは押さえられることが多かったのに。
リド「なのに今の政府は何だ。レイ将軍も私も解雇し、ハサ民族と協力を持ちかけられても見捨て、ミドラ国の醜態を許容している。」
確かにそうかもしれない。そういえばうちのミドラ民族が鎮圧されてるところは見たことがないかもしれないな。
戦時中、僕はレイ将軍のファンだった。彼女は美形で、長い髪と憂いを帯びた表情が神秘的だった。しかし解雇されてたのか。今頃どうしてるだろうか。
リド「レイ将軍は革命に否定的だ。だが我らが勇姿を見せれば!」
半年後、大きいクーデターが起こった。なぜか最新兵器を持っていて、訓練された兵士によるものだった。学校が閉鎖され、シェルターに避難するよう国に命令された。その時の僕は、リド元将軍の部下が書いた新聞を読み込んでいた。しかし、クーデターへの参加は躊躇した。何度も頼み込まれたが。
外ではゲルジ連邦、モル帝国が我が国の大統領陣営を軍事支援していた。ミドラ国は国内の火消しに熱心でそれどころじゃなかったみたいだ。僕はリド将軍がこの国のトップに立ち、ハサ民族とゲルジ連邦と共闘し、モル帝国とミドラ国を打倒することをシェルターで夢見ていた。しかし、何故ゲルジ連邦がリド将軍を支持しないのか疑問だった。
友達「…」
例の友達は何も言えなかった。僕もかける言葉が見つからない。僕の今の思想は秘密にすべきだから。秘密裏に実行すべきだから。彼女はスパイかもしれない。
リド将軍が自殺した。彼でも3か国合同で相手されたら敵わなかったみたいだ。
非常事態宣言は解除され、諦めが民衆の空気を漂った。
僕は空虚なまま、大学生活を送った。レイ将軍の行方と、もう来ないリド将軍たちの新聞を目で追いながら。
数年後、僕は大学を卒業した。リド将軍の支持者の下っ端から、レイ将軍が車に轢かれたことを知った。レイ将軍の配偶者が見つけたらしい。轢いた人は、レイ将軍が窶れすぎて誰だか分からなかったそうだ。僕はすっかり革命に興味をなくし、音楽を聞き、一般市民のようになった。熱に侵されていたのかもしれない。熱に侵されつつも、僕は現実を見ていたような気がする。地図は決して変わらなかった。それでいい。僕には配偶者がいるのだから。
それでも世界は平穏を望む @Mazakon
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