なんjー民が転生した話

アルティメット久住

プロローグ:【悲報】ワイ、転生して起きたら勇者になっていた件


……ん。……。


まーたやってしまった。寝落ちってやつや。


確か、深夜3時に「【画像あり】この画像で抜けない奴、おるんか?」っていうクソスレをまとめてて……。あまりの画質の低さに絶望して、そのまま椅子の上で意識を失ったんや。

 

腰、痛いなぁ……。首、バキバキや。

……ん?


「……柔らかい?」


いつも使ってるAmazonで3000円だった安物のゲーミングチェア(笑)の感触やない。なんや、この極上の、シルク100%みたいな肌触り。


あと、なんかお香みたいなええ匂いする。ワイの部屋、基本カップ麺の残り香と男の加齢臭のハイブリッド仕様のはずなんやが……。


(……薄目を開ける)


「……………………は?」


高い。

天井が、高い。

あと、シャンデリア。


え、何あれ。本物のクリスタルか?


視線を横に向けると、そこには……。


「……目覚めましたか、勇者様」


……お。おう。コスプレかな?

そこには、アニメから飛び出してきたような、透き通るような白銀の髪をした美少女が、膝をついてこっちを見ていた。


服は、なんやこれ。中世ヨーロッパ? 聖歌隊?

とりあえず、めちゃくちゃえちえちな格好してる。


「あ、えっと……。ここ、どこですか?  撮影中?」


言葉を出そうとした。

が、その瞬間。


脳内に、すさまじい音のノイズが走る。


《エラー:現世言語の出力は制限されています》

……。

《代償スキルの適用を開始します》

……。!


《アヴノーマルスキル『神域掲示板ログ・スレッド』が発動しました》


「……へ?」


待て待て待て。

今、なんか脳内でシステムメッセージみたいなの聞こえたぞ。


さては、これアレか?

なろう小説で100万回見た異世界転生ってやつか?

 

いやいや、ワイは35歳の独身無職やぞ。前世で後悔……?

そらあるわ。めちゃくちゃある。


もっと勉強してればよかった。もっと外に出ればよかった。

掲示板でレスバして勝った負けたで一喜一憂する人生じゃなくて、目の前の人間と向き合えばよかった。


……死ぬ直前、サーバーの火災から逃げ遅れた時、最後に思ったのは「あ、これ来週の予約投稿設定してないわ」だった。

そんな悲しきモンスターに、人生のやり直しをさせようってのか、神様よぉ。


「勇者様……? お加減はいかがですか?」


美少女が心配そうに顔を近づけてくる。ふむ。とりあえず、状況を確認せなあかん。

ここは冷静に、「ここはどこだ? 君は誰だ?」と聞くのが筋や。


「あー……。あー……」


(喋ろうとすると、脳内に大量の書き込みが流れ込んでくる)


1:名無しの神様  お、起きたかwww

2:名無しの神様  イッチ、顔色悪すぎやろ。二日酔いか?

3:名無しの神様  聖女ちゃん、めちゃくちゃ困惑してて草。


「……っ!?」


視界の端。

空中に、あの「青白い掲示板の画面」が展開されている。


そして、ワイの口から出た言葉は、自分でも信じられないものだった。


「……おはスタやで。ここ、どこのサバや? 聖女ちゃん、エッッッッッッッッすぎるメンス」


「…………はい?」


聖女、フリーズ。ワイも、フリーズ。


……。…………。


待て待て待て待て!!!!! 今、ワイなんて言った!? 「おはスタ」!? 「鯖」!? 「エッッッッッッッッ」!?

 

違う! 違うんや!

 

ワイはもっと、「ここは……お城の中ですか?」みたいな、シュッとしたことを言いたかったんや!


《補足:スキル『神域掲示板ログ・スレッド』の権能により、思考は神々と共有されます。代償として、出力(発話)は掲示板の用語に強制変換されます》


「無茶苦茶やろがい!!!」


と、叫ぼうとしたら、「草ァ!! 運営仕事しろや!!」って叫んでた。


死にたい。今すぐ死にたい。

せっかく美少女が目の前にいるのに、第一声が「エッッッッッッッッ」って。これもう不審者として処刑されるルートやん。詰んだ。

ワイの異世界ライフ、開始一分もしないで終了のお知らせ。


「……ふふっ」


ん? 聖女が、小さく笑った。


「『サバ』……『エッッッ』……。古の神々の言葉でしょうか? 歴代の勇者様方も、時折不思議な呪文を口にされると古文書にありましたが……。まさか、これほどまでに『威厳』に満ちた言霊をお持ちとは」


……え。


聖女の瞳が、キラキラと輝き始める。

なんか、頬が赤らんでいる。


「私にはわかります。その一見理解不能な言葉の中に、凄まじい魔力と、この世界を救う決意が込められていることを!」


「(いや、ただのネットスラングやで……)」 → 「せやで。ワイがこの世界の王(魔王)を分からせてやるから震えて待つメンス」


言っちゃった。言ってしまったよ。

でもようやく理解できたンゴ。


神々の掲示板とやらを見て、その代償で喋り方が変質する。

……なるほどなぁ等価交換ってやつか。まぁ普段からこの喋り方だからあんま変わらんけど。


「……ええわ。やってやろうやないけ」


(脳内の掲示板)

10:名無しの神様  お、イッチがやる気出したぞw

11:名無しの神様  とりあえず魔王討伐目指すんか?

12:名無しの神様  魔王、今北産業。


「魔王をぶっ倒して、ワイが異世界の管理人(笑)になってやるメンス。お前ら、有益な情報以外はNGに入れるから覚悟しとけよ」


聖女「おお……! なんという力強いお言葉……! さあ、勇者様。まずは王の間へ!」


ワイ、佐藤謙介。35歳。独身。職業・勇者(中身なんJ民)

ここから、ワイの「魔王をレスバ(物理)で分からせる旅」が始まる。


この時はまだ、神々の掲示板に書かれたこの世界の本当の正体について、ワイはまだスクロールして見ていなかったんや……。

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