1-2.ナトゥラン
「上手くやれるかな・・・」
そう呟きながらしゃがんだままの姿勢を保ったまま手早く
それが終わると今度は腰帯に短剣を取り付け、次いで容器から銃弾を五発取り出して四発を腰帯に付いた収納口に差し込む。
そして最後に残った一発を拳銃に装填する。
すべての動作が流れる様に素早く的確で明らかにルフェーノが“そうしたこと”に手慣れているのがわかる動きだった。
この国は治安が悪い。
その要因の一つとして魔動車や魔動機関車と共に急速に普及した“銃器”の存在があった。
地域によっては自衛用の銃器の個人所有を認める自治体も存在するが、そのことがまた犯罪の増加を招いていると言う指摘もある。
だがそもそも一般人が手にするにはまだまだ高価な代物だ。
そう考えるとルフェーノが手慣れているのはあまりに不自然と言えたが、事実として彼は“そうしたこと”に慣れていた。
準備を整えると他の荷物をその場に残して拳銃を片手に街道脇へと移動する。
左を見れば先程まで乗っていた旅客馬車の後姿が遠ざかって行く。
どうかそのまま無事バラロイトへ辿り着いてほしいものだ。
反対に右を見れば問題の魔動車が近づいて来るのが見えた。
距離にして二〇mくらいだろうか。
彼は躊躇なく街道へ飛び出すと拳銃を両手に持って銃口を魔動車へと向けた。
「っ・・・」
銃を構え狙いを定めるルフェーノの傍を銃弾が通過した。
魔動車に乗っている連中がルフェーノに気づいて撃ってきたらしい。
車両の正面、道を塞ぐかのように彼が立っているのだから気づくのも当然と言える。
二発目、三発目と銃弾が飛んできたがいずれもルフェーノには当たらない。
決してルフェーノが避けている訳ではないし銃弾を弾いた訳でもない。
魔動車の連中があまりに下手過ぎるのかもしれないが、それ以上に銃そのものに問題があると言えた。
普及したとはいえこの国で使われている銃器の大半は命中精度が悪く射程距離が短いのだ。
それでも魔動車が近づいて来るので距離があっという間に縮まっていく。
そのままではいつか銃弾に当たるかもしれないし魔動車に轢かれてしまう。
にも関わらずルフェーノは冷静に呼吸を整え狙いを定めた。
そして引き金を引くとほんの僅かな衝撃が手に伝わるのみ。
魔動車の連中の様な煩い発砲音も聞こえず本当に発砲したのか疑いたくなる程だ。
しかし、彼が放った銃弾は正確に迫る魔動車に狙い通り命中していた。
「っと・・・!」
命中結果がなんであれ魔動車がその場で急停止する訳ではない。
それに乗っている連中が発砲を続けている以上は危険なことに変わりない。
ルフェーノは発砲を終えると即座に荷物を置いたままの草叢の方へと跳んで避けた。
通り過ぎた所を撃ち込まれる可能性があると考え着地すると草叢に伏せたまま魔動車が通り過ぎるのを待つ。
思った通り何発か撃ち込まれたが身を隠したことで一発も当たらずに済んだ。
或いは連中の銃か腕前が劣悪過ぎたのかもしれないが。
「速度が落ちてるじゃない!」
「何やってるんだ!?」
「違う、車両がっ・・・あのガキなにしやがった!?」
ルフェーノの愛らしい丸耳は通り過ぎて行く車両から発せられた声を拾い上げた。
顔を上げれば通り過ぎた魔動車が徐々に減速していくのが見える。
どうやら上手く行ったようだと彼は安堵した。
これであの旅客馬車が追いつかれる心配はなくなった。
緑人族の女の子に格好つけた手前、もし外して走り去られたらと思うと実は気が気じゃなかったのだ。
とは言え問題は幾つかある。
これでルフェーノはあの魔動車の連中に明確に敵対してしまった。
それに勢いで馬車を降りたものの正直“ここ何処だよ”と言う有様だった。
バラロイトまで一本道と聞いているから方角さえ間違えなければ辿り着けるとは思うが、どれだけの距離があるのかもわからない。
その二つだけでも頭が痛いと言うのにより厄介な問題がもう一つ。
「何者だ」
ルフェーノが屈んだまま次弾を装填しようとした直後、背後から声が聞こえた。
大きすぎず小さすぎず、でもはっきりとした声だった。
気配を感じ取れなかったので思わずビクリとしてしまった。
その所為で彼の耳も尻尾もピンと伸びてしまう。
ルフェーノが驚いている間に彼の左右を人が乗った獣たちが通り過ぎていく。
それらの背を見送りながら恐る恐る振り向くと大きな猫種の獣に騎乗した女性が槍の刃先を向けていた。
青みのある銀髪に細長い耳を持つ褐色の肌の美しい女性だ。
肌の色から彼女がアドレア人がナトゥランと呼ぶ人なのだとすぐにわかった。
ルフェーノが直面しているより厄介な問題。
それは魔動車の連中と争っていた様子のナトゥランたちがルフェーノのことをどう思い、どう判断し、どう扱うかというものだった。
ナトゥランの中には“アドレア人憎し”と言う一族もいる為、もし目の前の彼女たちがそうした一族であれば助かる可能性は低い。
「・・・銃を置いても?」
「・・・・・・良いだろう」
とりあえずいきなり刺されなくて良かった。
そう思いつつ女性に許しを得て拳銃を足元に置き、更に腰帯に付けた短剣も外した。
更に自発的に頭の後ろで両手を組んで抵抗する意思がないことを示す。
彼の行動を見てナトゥランの女性は一瞬目を瞠ったがすぐにまた睨むような目に戻ってしまった。
その様子に“アドレア人憎し”の一族かもしれないと不安が過る。
「「・・・・・・」」
ただジッと見ているだけで何もしてこなければ何も言って来ない。
互いに無言のまま見つめ合っている状態だ。
その間にも背後から銃声や怒声が聞こえた。
恐らく停車した魔動車を先ほど走り去って行ったこの女性の仲間たちが襲っているのだろう。
だが女性は相変わらずルフェーノを睨んだままだ。
どうしたものかと思っていると弓を持った別のナトゥランの女性がやってきた。
彼女もまた猫種の獣に騎乗しルフェーノをジッと見ていたが銀髪の女性の傍へ行くと何かを耳打ちした。
銀髪の女性は頷くとようやく口を開いた。
「・・・・・・何故奴らを止めた?我々に加勢した理由は?」
(・・・そうか、見方によってはこの人たちに加勢した様に見えるのか)
女性からの問い掛けにルフェーノはそう思ったが、自分の意図に反した受け止め方をされては堪らないとも思った。
一般的なアドレア人なら我が身可愛さに恩着せがましく答えた筈だ。
しかしルフェーノは誤解を解いた上で正直に話さないと互いの認識に齟齬が生じると考えていた。
故にその思考はアドレア人らしくないものと言えるだろう。
「この先の街に向かっていた単なる一般人です。別にあなた方を助けようとした訳じゃありません。自分が乗っていた馬車が危ないと判断してあの車を止めるしかないと思い、行動しただけです」
「・・・あの馬車に乗っているのは君の仲間や家族なのか?」
「いえ、偶然乗り合わせただけの俺と同じ一般人です」
「その様な者たちを守る為に君は単身降車したのか?」
「走る車両の上から正確に当てる自信はありませんでしたから。それに堂々と銃を使う訳には行かなかったので・・・出来れば他の人に持っていることを知られたくなかったんです」
「・・・では、我々に対する特別な意図はないと?誰かに命じられた訳でもないのか?」
「はい。俺の思い立ちによる行動です。正直、あの車を止めた後はあの連中とあなた方に殺されない様にどうやってこの場を逃れて街まで行けば良いのかと困っていました。ここがどの辺りかも全くわからないですし・・・」
ルフェーノの言葉に二人のナトゥランの女性は目を瞠った。
口を微かに開けた状態で数秒固まった後、二人は顔を見合わせた。
どう見ても呆れている様子だった。
予想外の返しに困惑している様にさえ見えてなんだか申し訳なく思えて来る。
「・・・・・・ならば、我々が君と同じアドレア人であるアイツらをどうしようと問題ないか?」
「はい。俺にとってもあの人たちは敵ですから」
「・・・手を下ろしてくれ」
彼が言われた通りに手を下ろすといつの間にか銀髪の女性の表情が柔らかいものに変わっていた。
その変化にとりあえず敵ではないと判断して貰えたのだとルフェーノは安堵した。
「私はチェルロ族の戦士ネロヴル。君は?」
「ルフェーノです」
「あの車を止めてくれて私たちはとても助かった。礼を言うよ、ルフェーノ」
そう言ってネロヴルは微笑んだ。
先ほどまでは凛々しくて格好良い印象が強かったが微笑むと美しさが際立つとルフェーノは感じた。
「いえ・・・所であの連中はチェルロ族の皆さんに何をしたんです?」
「アイツらは私たちの仲間を攫った」
ルフェーノの問い掛けにネロヴルの顔から折角見せた微笑が消え、怒りを抑えるような口調で教えてくれた。
彼女の言葉に“そりゃぁ怒りますよね”と思うといつの間にか背後から聞こえていた銃声や怒声が聞こえなくなったことに気づいた。
どうやら魔動車の連中とチェルロ族との戦いは終わったようだ。
「戦闘が終わったようだ。一緒に来てもらえるか、ルフェーノ」
「はい。でも荷物は・・・」
「ああ、すまない。武装はしないで貰えると助かるが荷物は持ってくれて構わない」
「わかりました」
ルフェーノは頷くとまず鞄を拾いに行き急ぎ足で戻って来るとネロヴルに見える様に地面においた銃と短剣を鞄へとしまった。
先に銃と短剣を拾って鞄の下へ向かわなかったのは敵意がないことを示す為の配慮である。
先ほどの抵抗の意思がないことを示す行動と言い、ネロヴルはこのアドレア人の少年に興味を抱きつつあった。
“お待たせしました”と彼が言うとネロヴルは騎乗したまま、彼はその隣を歩いて魔動車の下へと向かう。
道中ではネロヴルが乗る猫種の獣が興味津々と言った様子で彼を見ていた。
その獣はルイクスと呼ばれる“魔獣”なのだとネロヴルが教えてくれた。
初めて魔獣と接するルフェーノはその視線にやや緊張気味であったが魔獣の方は視線が合うと嬉しそうに“ミャッ”と鳴き声を発した。
どう言う意図で鳴き声が発せられたのかわからずルフェーノは更に緊張した。
一方のネロヴルは楽しそうな“相棒”と困惑した様子のルフェーノの姿につい微笑んでいたが。
「彼はルフェーノ。前を走っていた馬車に乗っていたが、馬車が巻き込まれるのを防ぐ為に一人降りてこの車を止めてくれた勇敢な少年だ。我らにとっては恩人も同然。失礼のない様に」
「「「はっ」」」
魔動車の傍まで移動するとチェルロ族の戦士たちが集まっていた。
ネロヴルが戦士たちに伝えると皆の視線がルフェーノへと集中する。
彼は思わず背筋を伸ばしたが同時に尻尾と耳がピンとなってしまう。
その様子に幾人かのチェルロ族の戦士は“可愛い”と思ったが顔に出ない様に必死であった。
(ネロヴルさんって結構偉い人なんじゃ・・・と言うか間違ってはいないけど勇敢とか恩人とか大袈裟な気が・・・)
視線に困惑したルフェーノであったがチェルロ族の戦士たちがネロヴルへ報告を始めるとしっかり聞き耳を立てた。
魔動車に乗っていた連中は全部で六人。
魔動車が停止するとまだ連中が困惑している内にチェルロ族の戦士たちは迅速に荷台上にいた四人を倒して攫われた仲間の安全を確保した。
直後に前席にいた残り二人の内一人が短剣を振り回しながら逃げようとした所を殺害。
情報を聞き出す為に最後の一人に投降を促したが自ら顎下を撃ち抜いて自殺してしまったらしい。
他方、チェルロ族の戦士たちは連中にやられた貨物馬車の人と馬の手当ても行ってくれていた様だ。
そのチェルロ族の戦士たちはネロヴルを含めて十数人。
全員が猫種の魔獣ルイクスに騎乗しているので人数と同じ数の大きな猫がいるのだが、皆大人しく乗り手の指示に従っている。
但し、何体かはルフェーノに好奇の眼差しを向けており中には興味津々と言った様子で尻尾をぶんぶん横に振っている個体もいたりする。
一連の戦闘でチェルロ族は負傷者はいても死者は出なかった。
負傷者の一人は肩を撃ち抜かれていたが幸い銃弾は貫通しているので魔力治療で傷口を塞いでいる所だと言う。
魔力による治療はとても効果的な反面、多用すると自然治癒力の低下に繋がると言われている。
チェルロ族においても同様らしく、この場で魔力によって完全に治すことはせずに最低限の処置を施すだけに留めるのだそうだ。
そこまで聞いてチェルロ族の戦士たちの優秀ぶりに感嘆の念を抱くルフェーノだったが、すべてが上手く行っていた訳ではない様だ。
魔動車の荷台には二つの金属製の檻が載っていて一つにはチェルロ族の女性が二人、もう一つにはルイクスが一体囚われていた。
あとはその二つの檻から彼女たちを救出すれば良いのだが・・・それが出来ずにいた。
「下がっていろ!」
魔動車の荷台の上。
チェルロ族の女性戦士の一人がそう声を掛けると槍を構え横薙ぎに繰り出した。
だが直後にはガキーンッと言う金属音が聞こえたかと思うと女性戦士の槍が弾かれていた。
「っ・・・ネロヴル様、檻は全体を魔防処理されていて我々の攻撃では壊せそうにありません」
「そうか・・・・・・だが、開け方がわからない我々には他に術はない」
槍を弾かれた女性戦士とネロヴルが険しい表情で言葉を交わす。
魔力があるこの世界では技術の発展と共に魔力への対抗手段も発達している。
この檻は正にそうした技術を用いたもののようだ。
具体的には魔力を吸収する素材を用いているらしく、女性戦士が槍に込めた魔力は接触した際に消されてしまいただの槍がぶつかっただけにされてしまったのだ。
その様子を見ていたルフェーノは鍵が見つからないのだろうかと思ったがネロヴルの言葉が“開け方がわからない”であったことに気づく。
ナトゥランと呼ばれる人々は歴史的経緯からアドレア人に対して根深い敵意を持っている。
ネロヴルが当初ルフェーノを睨んでいたのも彼が怪しいという以前にその敵意の存在があった筈だ。
巻き込まれた貨物馬車の人と馬を救出したのも自分たちが悪いと吹聴されるのを防ぐ為であって決して厚意によるものではないだろう。
アドレア大陸の雄大な自然の中で生きアドレア人を嫌うのがナトゥランと言っても過言ではないのだから。
その所為でナトゥランの人々はアドレア人にとっては一般的なモノであってもその知識を持ち合わせていないことが多いと聞いた事があった。
要するに鍵がどんなものかわからないのでそもそも探すという発想がなかったのだ。
「ネロヴルさん、俺に調べさせてくれませんか?もしかしたら檻の開け方がわかるかもしれません」
「なに?だが・・・・・・わかった」
思わぬ申し出にネロヴルは驚き一瞬躊躇ったがすぐに許可を出した。
彼女はルフェーノのことを“敵ではない”と判断しながらもまだ信用している訳ではなかった。
しかし、檻の開け方がわかれば助かるのは事実。
わからなくとも現状から変わらないだけで後退する訳ではない。
それに開ける事が出来た際に彼が対価として提示するであろうことは“最寄りの街への案内”だろうと言う見立てがあったことから提案を受け入れることにした。
ルフェーノはネロヴルの許可を得ると車両の荷台へ近づき、チェルロ族の戦士たちの視線を一身に受けながら鍵穴を確認する。
檻は魔防処理されているだけでなく鍵穴も特殊だった。
恐らくこうした犯罪者向けの用途に作られた特注品なのだろう。
それでも鍵穴を見れば鍵のだいたいの形は予測出来る。
一般的な鍵とは異なり恐らく薄い板みたいな鍵の筈だとルフェーノは推察した。
恐らくこの車に乗っていた六人の中の誰かが持っている筈。
ルフェーノがその旨を伝え案内されたのは街道を横に逸れた草原。
六人の死体が丁寧に横並びに横たわっていた。
(死体漁りなんて嫌だけど・・・この中の誰かが持っている筈だ)
もしこの六人が持っていなければ車両の何処かに隠してあるのだろう。
そう思いながらルフェーノは一つ深呼吸をしてから男女三人ずつ計六人の死体を順番に探り始める。
一人目、地人族の男性・・・なし。
二人目、獣人族の女性・・・なし。
三人目、白霊族の男性・・・家族の写真らしきモノを持っていたが見なかったことにした。
四人目、白霊族の女性・・・あった。
小さな切り込みのある金属製の板が二枚、金属製の輪で纏められていた。
「これで開けられるかもしれません」
「なっ・・・本当か!?」
ルフェーノが輪を持ち上げて見せるとネロヴルが驚愕の声を発した。
それまでずっと凛々しく落ち着いていたネロヴルのやや感情的な様子にルフェーノは“こんな声も出すんだなぁ”などと呑気に考えながら魔動車へ向かった。
戻って来たルフェーノとネロヴルの様子にチェルロ族の戦士たちがざわめく。
“まさか”、“本当に”と半信半疑と言った様に見えるが幾人かは期待の色を浮かべていた。
ルフェーノは周囲のそうした視線を気にする事無く早速鍵を差し込む。
奥まで差し込むとカチャッと音がした。
その音に反応してルフェーノと囚われていたルイクスが同時に耳をピンとさせた。
そっと檻の扉を引くと開いた。
皆が驚く中、もう一つの檻も開けると今度は“おおっ”と歓喜の声が上がった。
「助かったよ。ありがとう、ルフェーノ」
「いえ、良かったです」
「ミャーウ♪」
「うわっ」
ルフェーノが荷台から降りるとネロヴルが感謝を口にした。
そこへ後ろから何かがポスンとぶつかってきた。
振り向くともふもふの塊・・・ではなく先ほど檻から出て来たばかりのルイクスが嬉しそうに頬を摺り寄せて来た。
他のルイクスたちが砂色だけの単色毛であるのに対しそのルイクスは白色の毛が混じった二色毛であった。
「ギギンがすっかり懐いてしまったな」
二人の様子にネロヴルが目を細めて微笑んだ。
ギギンと言うのが白毛混じりのルイクスの名前らしい。
ルフェーノは懐いてくれたのなら良かった、と思いつつもどうしたら良いのかわからない。
落ち着かせようと思い撫でるがギギンは嬉しそうにして一層スリスリしてきた。
どうやら逆効果だったらしいと思いながらもギギンの心地良い毛並みにルフェーノは“まぁ良いか”なんて思いそうになって慌てて振り払った。
「これで皆さん帰れますね」
ルフェーノがそう言うと予想に反してネロヴルは表情を曇らせた。
それどころかギギンまで大人しくなってしまう。
「実はな・・・・・・攫われたのはギギンたちだけではないんだ」
まさかの事実にルフェーノは唖然とした。
襲撃して来た連中の輸送車は全部で四台でまともに追跡出来たのはこの一台だけ。
しかもこの輸送車はネロヴルたちの追跡に気づいてどうやら他の三台と別の進路を取って街道に逃げ込んだらしい。
だから残る三台の輸送車に乗せられた人々の行方がわからない。
しかも攫われた人々の中にはギギンの“相棒”であるネロヴルの妹も含まれているのだと言う。
「他にも戦士たちを各所に派遣して行方を追っているが・・・・・・なに、すぐ見つかるさギギン」
「・・・ミャーオ・・・」
先ほどまで上機嫌でルフェーノに頬をスリスリしていたギギンが明らかに落ち込んでいるのが分かった。
魔獣には知能があり人語を解すと聞いてはいたが本当なのだとルフェーノは思った。
だがそれよりも。
ギギンのあまりの落ち込みぶりに心が揺さぶられてしまう。
そんなギギンを励ましているネロヴルが無理に微笑んでいることにも気づいてしまい。
そこへ今度はネロヴルを心配してか彼女が乗っていたルイクスがやってきてネロヴルに身体を摺り寄せ始めた。
(ああ、駄目だなぁ俺って・・・)
悲し気なネロヴルたちの様子を見たルフェーノは左手で顔を覆うと小さな溜息を吐いた。
ルフェーノには目的があり、その為にバラロイトを目指している最中だ。
目的達成に向けてざっくりではあるがまずすべきことの予定まで組んである。
そもそも彼は自分が口にした通り“一般人”に過ぎない。
だからこれ以上、チェルロ族に力を貸す必要などない。
あとはチェルロ族の問題であって大事なことは無事に解放されバラロイトへ辿り着くことだ。
しかし、ルフェーノ・タリーニと言う少年は他人のそう言った表情を見過ごせない非常にお節介な性格の持ち主だった。
ティアーデ ~狂乱の都市~ 紅零四 @kurenaizeroyon
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