泡に溺れた死者

冥歪

冒頭

三万二千円。俺はくしゃくしゃになるまでそれを握りしめ彼女の元へと向かう。その足取りは重く、まるで足におもりがついているようだ。

いつものように店の人に案内されソファーへと座る。そして目的の彼女に迎えられた。

「また来てくれたの?」

俺はコクンとうなずく。彼女はやさしい笑みをうかべさせて細い手で俺の服を脱がしていく。その手からまるで女神のように感じた。ああ、やはり俺にはここしかない。すると、脱いだスーツに入っていたのだろうか――そこからスマホが光っているのに気づくしかし、それを気にせずに、彼女は優しく抱いてくれた。今日は婚約者が家で肉じゃがをつくって待ってくれているというのに、俺は彼女を強く抱きかえす。

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泡に溺れた死者 冥歪 @kurai_hizumu

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