歩けば歩くほど強くなるスキルで散歩好きの俺は無双する
@pajiru
第1話「転生」
人生は移動ばかりだった。来る日も来る日も仕事ばかりで俺の足はクタクタに疲れていた。
空の青さを見るのも、綺麗な花を見るのも、発展した自分の国を見るのも全てどうでもよかった。
普段のように終電まで残業をし、始発で家を出る。
「足が重い...」
毎日仕事ばかりで俺の足はもう限界を迎えていた。
一歩を踏み出すのでさえ苦痛である。
いつものように始発の電車を待っている時だった。
少し力んでしまったが故に俺の足は支えが効かなくなりホームのタイルを越してしまった。
「あっ...」
気づいた時にはもう遅かった。
俺の体は空中へと投げ出され、始発の電車がタイミングよく進んでくる。
そのまま線路に落下し、電車は刻一刻と迫ってくる。
「あぁ俺死ぬんだな」
全てを悟った俺は、生にしがみつくことなく死を受け入れることにした。
この世に未練なんてない。死ぬことができてラッキーと思うことができるぐらいには世界が嫌いだ。
全てを悟った俺は痛みを受け入れることにした。
次の瞬間、体全身に衝撃が走ったかと思いきや気付けばどこからか爽やかな風が吹いていた。
「ここはどこだ」
俺は目を覚ますとベッドの上だった。
知らない女性が俺の顔を覗いたあと慌てた顔で誰かを呼びに行った。
自分の手を動かして見てみたが何か違和感がある。
異様に小さい。
サイズが縮んだだけだはなく腕の肌も明らかに若返っていた。みずみずしく、とても白くて健康的な色をしている。
女性が男性を連れてきて二人とも俺をみている。
二人は俺の顔をずっとみていて少し不気味だなとも思っていたその時、女性の方がすごい勢いで俺のことを抱きしめに来た。
「生きててよかった。アルデル!」
なぜか女性は号泣していた。後ろで見守っていた男も少し涙ぐんでいる。
あぁそういうことか。
転生したんだな俺は。
今までの出来事で転生したことを悟った。
おそらくこの女性と男性は俺の両親ということだろう。そして俺は長くの間眠っていたか、それとも事故にあったか。
母親の暖かさを感じたのはいつぶりだろうか。思えば高校を卒業して働き始めて以降母親にあった覚えがない。
あーもっと話しとけばよかったかな。
その瞬間俺の頭の中に直接音声が流れてきた。
《固有スキル『スカイウォーク』を獲得しました》
スカイウォーク?
俺は場違いな言葉に少し驚いた。
続けて直接脳内に話しかけてきた。
《基礎スキル『歩行』の習得状況に応じて派生スキルが順次解放されます》
歩行だと?
なんて皮肉なものだ。
こういうのは大体『炎』とか『水』とかそういう属性系のスキルが与えられるんじゃないのかよ。
しかもよりによって前世で散々使い倒した足を使うスキルなんて。
俺はとりあえず母親の拘束を手で優しく解き、ベッドから立ち上がった。
「ちょっとダメよ。まだ休んでなくちゃ。」
「いや俺はもう大丈夫だ。歩けるから。」
初めて喋ってみた感じは悪くない。
なんというか絶妙にいい声をしていた。
低すぎることもなく高すぎることもない中性的な声。
俺は両親の戸惑う両親をよそに初めて地面に足をつけた。
裸足のせいか床の冷たさが足に伝わってくる。
そこから一歩とりあえず踏み出してみた。
《累計歩数1歩を記録》
どうやら1歩歩くと勝手にカウントされるらしい。
「アルデル。大丈夫か?」
近くにいた父親が俺の肩を持とうとしてくれた。
「大丈夫。もう自分で歩けるから」
父親はすごく身長が高くて体つきもがっちりしていた。こんな人が親だなんて信じられないな。
「本当に心配したんだぞ。走ってくるって言ったきり帰ってこないから急いで駆けつけたら馬車に轢かれたって連絡があってな」
「本当よ。よく回復したわね。」
さっきまで泣いていた両親は俺の元気な姿を見て少し笑顔が戻ってきた。
一歩、また一歩と部屋の中を歩く。
《累計歩数2歩、累計歩数3歩》
歩くごとに脳内に話しかけてくる。
流石にうるさかったのでどうにかできないかと思い、脳内で「通知を切って」と命令すると歩いても直接話しかけてくることはなかった。
よし。これでうるさくなくなった。
いちいち一歩ごとに報告されたらまともに生活できるかどうかも怪しい。
俺は部屋の窓際の景色を見た。
窓から見えたのは驚くほど田舎の景色だった。
草木は生い茂り、ところどころにあるのは小屋のようなものばかり。
「現代とは全然違うなあ」
俺は一人呟き窓の外の景色を堪能した。
俺が生きていた世界とは全然違うがどちらにもいいところがあるな。心の奥底で田舎に住みたいという願いが今叶った。
俺はこの世界で与えられたものを無駄にはしない。
前世のような社畜にはならずに俺がこの世界の覇者になってやる。
そう心の中で深く決心した。
――俺の冒険はここから始まる
歩けば歩くほど強くなるスキルで散歩好きの俺は無双する @pajiru
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