サンタ漫才
乙島紅
サンタ漫才
「どうもー、僕たちM-1とクリスマスに触発されたネタ披露したいだけ芸人です」
「よろしくお願いしますぅ。まあ、言うてもう年の瀬で波に乗りそびれた感満載なんですけども」
「でもほら、毎年カクヨムコンの書籍化作品は十二月上旬あたりに発売されるやん? 回り回ってトレンドを先取りするかもしれんやろ」
「こいつ、取らぬ狸の皮算用だけは立派なんですよぉ。小学生の頃も、サンタさんにゲーム機もらえると思ってね、先に貯めたお小遣いでソフト買ったんですって。そしたらクリスマス当日、何もらったと思います?」
「あれよ。両手で持つタイプの」
「うんうん」
「真ん中が画面になっていて」
「ゲームボーイアドバンス?」
「みたいな形の、中に水が入ってる」
「ああ、嫌な予感だ」
「ボタン押したら中で水が押し出されて輪投げみたいになるやつ」
「ウォーターリングゲーム! みなさん知ってます? 平成初期の頃まではまだ地方のリゾート観光地の土産屋さんとかで見かけたあのおもちゃ」
「あれ最初は面白いんやけどな、五分くらいやると虚しくなってくるんやわ」
「分かる。案外ムズいしな」
「けどまあこれは俺の皮算用ってか、どう考えてもサンタさんが悪いやん? ゲーム機持ってへんやつがなけなしの小遣い貯めてゲームソフト買ってたら、そらクリスマスに欲しいのはゲーム機に決まっとるやん。やのにあえて別のもんプレゼントするってのはもうね、サンタさんの正体について疑わざるを得んわけよ」
「まあね。だいたい小学校高学年あたりから疑い始めるよね」
「そう。だからね、今日は皆さんにサンタさんの正体についてお話ししたいと思います」
「あ、ここで? 皆さんだいたい知ってると思うけど」
「サンタさんっちゅうのは……ガチャや」
「ガチャ?」
「俺調べやと、だいたい七割くらいがエセサンタやねん。残りの二割が欲しいものをそのままくれるSRサンタさん、そんで最後の一割が期待以上のものをくれるSSRサンタさんや」
「ああ、サンタさんの存在については信じていらっしゃる」
「それで皆さんがエセサンタを見抜けるよう、俺がちょっとやってみるから。お前子ども役やってみて」
「オッケー、子どもね。じゃあやるよ。……わーい今日はクリスマスイヴだあ! 僕んち、サンタさん来るかなあ?」
「コンコンコン」
「ノックだあ! まあ今どきの家に煙突はないからなあ! はいはーい、今開けますよ……ガチャ」
「漆黒の闇より血塗れた外套を纏いて訪ね歩く……汝、我に何を望む?」
「わあ、サタンさんだあ」
「我が眠りを妨げし者よ……望みを言え」
「どっちかというとあなたが子どもの眠りを邪魔してる気がしますけどね」
「言ええええええええええいっ!」
「わ、分かったよ! え、えーと、僕ポケモンの新作のゲームがやりたいんだよね。ゲームソフトください!」
「仮想の世界で小さき魔物を使役したいと申すか……ぬるい! 魔物を使役したくば我の使い魔を与えよう。選べ! 大地揺るがす巨獣か、大海に蠢く大鯨か、天空切り裂く神龍か!」
「三択ロースじゃないですか! ってかそんなヤバそうな使い魔結構ですぅ! もう帰ってください!」
バタン。
「……あれ、ちょっと待って。もしかして今のルビー・サファイア・エメラルドじゃなかった? うわ、ミスったぁ! サタンさん実は望み通りのプレゼントくれようとしてたんじゃん!」
ガチャ。
「あ、また来た! サタンさん、やっぱり僕さっきの三つの中で」
「お待たせしました! ご注文の品ですー!」
「急にテンション高い人来た」
「はい、こちらロースです。それから網も変えときます?」
「焼肉屋の店員!!」
「あれ、注文違いました? 店長ー! 三卓ロースじゃないみたいっすー!」
「うち三卓じゃないから! てかクリスマスに生肉頼む子どもいないよ! 早く店戻って!」
バタン。
「はぁ、はぁ……。テンションの温度差に体力持って行かれた……。次は一体どんなエセサンタがやってくるんだ……」
ピンポーン。
「インターホンだ。もう忍ぶ気がない」
ガチャ。
「こんばんはー。家事代行です」
「もしかして洗濯回す?」
「あら、正解でございますー。ぼっちゃん察しがいいですねえ。そしたらお夜食は何か分かります?」
「え、お夜食? 待って、ちょっと嬉しい。子どもの時、夜食って響きに憧れてたんですよねぇ。夜更かしできるのって大晦日くらいだったから、その時食べるミニカップそばがちょっと特別感あったりして」
「ぐつぐつぐつ……」
「わあ、なんか煮てる! やっぱりお蕎麦かな?」
「ブブー。正解はタヌキ汁でございまーす」
「タヌキ汁」
「新鮮獲れたてのタヌキを使っておりまーす」
「皮算用じゃなかったんすね!?」
「では、私はこちらで」
ガチャ。
「なんだったんだ今のエセサンタは……タヌキ汁作りすぎだし」
ココン、コココン、コココココン。
「やけにリズミカルなノックの音」
「
「え、三人!? しかも全員宅浪生!?」
「あの、僕たち家で勉強してたはずなのになぜかここに迷い込んじゃって……たまたま同じ宅浪生だって知って、グループ組むことにしたんです。ま、別に何か活動するとかじゃないんですけど」
「子どもでもこの人たちからプレゼントもらう気にはならないよお。とりあえず、タヌキ汁余ってるんで食べます?」
「あ、いただきます」「夜食、ありがたいっす」「お邪魔します」
「いや、僕もどうしようか困ってたんで……。ていうか、ちょっと気づいたことがあるんですけど」
「なんでしょう」
「ユニット名、英語の文法的には三宅浪ズの方が良くないですか? ほら、母音で終わる単語の複数形は『ズ』って読むって聞いたことがあるから」
「……」「……」「……」
「え、ちょっと待って、三人ともなんのことみたいな顔するのやめて。あなたたち受験控えてるんですよね」
「…………貴様には死を与えてやろう」
「ぎゃーーーー!! やっぱりエセサンタだった!!」
「ここで豆知識。サンタさんは海を越える時はソリじゃなくてクロールで泳いでるんだよ」
「サンタクロール!! もうええわ!」
〈了〉
サンタ漫才 乙島紅 @himawa_ri_e
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