包帯まみれの人形(男)と暮らすことになりまして

コヨミ

第1話 包帯まみれの君とスルメイカ

人形とは長い歴史を持つもう一つの生命のような物達、様々な用途があり愛でるも、呪いの触媒にしたり、または自信の鏡であり、家族の一員である


だが、不気味や恐れを抱く者も少なくない、人形は少女の遊びの象徴であり男が人形を愛でるのは頭がおかしいと言われ心に傷を作る者もいる


性愛の人形を女が持つのは恥ずかしいと咎める者もいる、何故かって?


頭が足りない愚か者はみな口を揃えてこう言う


ー気持ち悪いーの一言だ


異性より同性を選ぶ者も、生物より非生物を愛する者も、頭が足りない愚か者達は気持ち悪いの一言で一蹴し、自分と世間が正しいと暴力を振るうのだ


おっと、そろそろ開店の時間だ、続きはまた今度


今日こそは、お主の主が見つかると良いなーーー


ザリザリと、ゴリゴリの音が反響する部屋の中で、青年は何かを作っていた


カタンと紐で作ったパーツを組み立てている、それは人形をパーツだった


青年は人形が自立するように立たせては失敗し、また作り直すの繰り返しをしていた


一人前の人形師を目指しているそうだ、だがそれは技術の問題では無い、志を強く持つことだ


その青年は人形を作り続けては失敗を繰り返し、いつも頭を悩ませていた・・・


「あー!また自立できなかったかぁ・・・」


「蒼弥、前より上手くなったな、顔もよく出来ているじゃないか。」


「父さん・・・でも、足ができても塗装を終えてからの自立が難しくていつも足を作り直しの繰り返し・・・あ、材料足りないや。」


「ごめん、今日はこの辺にしておくよ。」


「ああ、気をつけて帰るんだぞ。」


「うん、母さんにもよろしく伝えとくよ、それじゃ。」


蒼弥/ソウヤと言われた青年は見習いの人形師で百年近く続く人形を作って販売する家系の跡取り息子だ


上に兄が二人いるが、人形作りに興味が無く、また既に既婚の身であるため三男の蒼弥が家を継ぐためにここ八年間人形作りをしている


今年で二十三になる蒼弥も母と二人で暮らしており、父はアトリエに住み込みで働いているため、帰るのは一年か半年に一回のみだ


蒼弥は祖父が亡くなる前に人形を作っているところを見て、興味を持ちーいつか俺も、じいちゃんみたいな人形を作りたい!ーと人形師を目指して中学三年から人形を作り続けている


蒼弥はバイトと父のアトリエの仕事の手伝いで収入を得ており、基本は材料を自腹で購入している、今日は材料の粘土を買いにいつもより早めにアトリエを後にした


蒼弥の町には父の働くアトリエから歩いて十分近くで粘土を始め、コスプレの材料を多く仕入れている店がある、蒼弥は常連のため粘土を購入し、まっすぐ家に帰るところで、見慣れない骨董屋ができていたのを見つけた


「こんな店、あったけ?」


疑問に思った蒼弥だが、何故か呼ばれるような声に導かれ、店へと足を踏み入れる


店の中は明らかにアンティークな品物から、ヴィンテージな家具や食器に人形まで置いてある、すると一際目立つ人形があった


その人形はいわゆるビスクドールと言われる磁器製の人形だ、一般的なキャストドールやソフビドールと違い、肌がきめ細やかな質感が特徴だ


しかし、服の中からでも見える包帯まみれの人形はまるで眠っているような顔をしており、薄暗い店内でもわかるほど美しい人形であった


顔の左半分は包帯が巻かれており、睫毛も白く、蒼弥はこの人形は作られてから数年の物だと思った、包帯が巻かれているのは、ヒビを隠すための物だと感じた


「それにしても、綺麗なドールだなぁ・・・」


蒼弥がそう呟くと、奥から店主と思われる自分と同じくらいの背丈の中華服を着た男が出てきた


「おや?御仁、その人形・・・ノアが気に入ったのか?」


「ノアって言うんですか、この子は。」


「左様、ノアは作られてから数年だが前の主が手荒な真似をしてな・・・ここで新たな主人を待って居る。」


見た目が同世代の人間とは言えないほど古風な喋りの男は、蒼弥がノアを迎え入れる主になるのかと見定めているような眼をしていた


「・・・あの、今俺手持ちが無くて、この子を迎え入れるには・・・」


「・・・・・・一万、ならどうだ?」


「え?一、万・・・えええええ!!」


「はっはっはっ・・・その反応は珍しいな、ノアも御仁を気に入っておる、良ければその一万円と引き換えに、ノアを外の世界へ連れ出してはくれぬか?」


「で、でも・・・うん?」


蒼弥は目の錯覚と思ったが、気のせいだったと思うことにした、ノアがこちらを見て連れ出せと言ってきたような気がしたが、蒼弥は店主と思われる男の取引に応じて、ノアを迎え入れた


「では、おまけと持ち出しようの鞄を用意する、少しだけ待たれよ。」


「は、はい・・・」


そうやり取りしてから五分後、店主は、トランク鞄を用意して、中にノアを入れた


おまけの品として人形サイズのティーセットを蒼弥に渡して蒼弥は一万円を払い、そして男は吉政/ヨシマサと名乗り、蒼弥に一つだけ注意事項を伝えた


ー決して、月の光が当たらないようにしておくようにーと


蒼弥は店を後にして、帰路へ付く、家に着くと母が出迎えて来た


「蒼弥、お帰り、おや?新しい子かな、何処で見つけたんだい?」


「・・・えーと、新しくできた骨董屋で一万円で・・・かな。」


「あらお買い得、中身見てもいい?」


「うん、いいよ。」


蒼弥はトランク鞄を開けて、中にいるノアを見せた、すると母親はこう言った


「眠っているような顔だけど・・・この子男の子だね、しかもめっちゃイケメンドールじゃん。」


「うん、これで一万円でお迎えしたのもびっくりだよ・・・」


蒼弥はノアをトランク鞄の中へ戻して部屋に行く


蒼弥は部屋着に着替えて、トランク鞄を再び開ける、ノアを取り出してまずは夕飯ができるまでの間髪を梳かすことにした


下の毛先から解すように櫛を入れて、徐々に上に向かっていく


次に服が少しだけ汚れているので、ノアに合いそうな服をいくつか専用のタンスから取り出していく、蒼弥は六十センチの青年の人形を作っており、それ用の衣装をいくつか持っていてノアを観察して、最終的に現代寄りのシャツとスラックスに着せ替えて、服は手洗いで夜風呂に入る時に実行することにした


次に服を着せ替える時に包帯の間から見えた傷をどうするかはまた今度にしようと考えた時に、母親が夕飯ができたから出ておいでと言われ、ノアを机の上に置いて夕飯を食べて、風呂に入り、服を手洗いで洗い、ノアをベッドのサイドテーブルに避難させて、足の造形に入り深夜零時に眠る


カタカタ、カタカタ、カタカタ・・・


(何か・・・カタカタって音が鳴るような、起きよう・・・)


(あれ?電気つけて寝ていないよね?どうして・・・うん?)


寝ぼけ眼で蒼弥は見た・・・


帰りに見つけた骨董屋で迎え入れた人形のノアが、テーブルに置いていたスルメイカを食べていた・・・


(な、な、な・・・なんでスルメイカを食べているのぉぉぉ!!?)


(待って待って!ノアが動いているのもホントなんで!?どうしてスルメイカをいやいやそれよりもどうやってノアと話せばいいのか?)


(あれ?そう言えば・・・今日って確か、満月だよね・・・月の光に当てるなって吉政さんが言ってて・・・)


その時、蒼弥は気づいた・・・


カーテンを閉めていないことに、気がついたと同時にーあーと間抜けな声を出していた


「む・・・・・・蒼弥。」


「・・・・・・っ!な、何?ノア?」


「ククク、よくぞ俺を迎え入れたな!新たな主よ!」


「この俺を、世界に七体しかないリリア・ニィーデイスが作のノワールシリーズの第一ドール・・・ノアを迎え入れたことに、感謝するぞ。」


(あー、この子中二病だー)


「では、新たな主に・・・契約の印を与えようか。」


「ん?何これ?指輪?」


「受け取るがいい、新たな主よ、これは契約の証であり、エンゲージである!」


蒼弥は指輪を左薬指にはめると、指輪が光を放ちノアの体から赤い光が見えた


するとノアはこう言った


「我が主蒼弥に、祝福あれ。」


そして、蒼弥の反応はこうだった


「・・・・・・これなんて、薔薇のなんとか?」ーーー


「ノアよ、やはり目ざめたか・・・しかしこれで、某の役目は一つ終えた。」


「さて、次の主は人形に理解がある物で助かった、今度こそ、幸せになれよ。」


「ノワール達よ・・・」










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