転生直後からラスダン直結!? ~俺のデバッグでバグだらけのRPG世界を修正しないと世界が滅ぶらしい~

メグリくくる

序章

-

「それじゃあ、後は頼んだぞ。上江州(かみえしゅう)」

「お疲れ様です」

 意気揚々と帰宅する社長にそう言いながら、俺は苛立ちをぶつけるようにキーボードを激しく打鍵していく。

 腱鞘炎になりそうな手を休めるためにエナジードリンクを傾けながら、眼の前のデュアルディスプレイへ気だるげに視線を向ける。

 左側のディスプレイにはソースコードの羅列が並んでおり、右側のディスプレイにはそのソースコードで実行されているゲーム画面が表示されていた。

 そのゲームの名前は、『ユグドラシルフロンティア』。

 俺が務める株式会社フラットディメンションが制作している、新作のシミュレーションRPGだ。

 ……うわ。ここの処理止まってる。またバグかよ。

 指は流れるようにキーボードを連打していき、ソースコードを書き換えていく。

 本来ならバグの修正は発見者が報告書を書き、それをチェックするチームが確認してから直すというサイクルで行われるが、この会社ではそんなまともな開発体制を敷いていない。

 そもそも開発スケジュールがどう考えても短すぎるし、その上社長がしなくていいのにいちいち開発に口を出してくる。

 ……こいつも、元々はシンプルなファンタジーRPGだったんだけどなぁ。

 ユグドラシルの名前が付いている通り、『ユグドラシルフロンティア』は北欧神話をベースにした物語、になるハズだった。

 しかし先程述べた通り社長が口を出して色んな要素、他の神話だけでなく頭がイカれたのかSF要素まで盛り込まれてまさにカオスとしか言いようのないゲームになっていた。

 ……でもうちの会社のゲーム、それがまた変に受けてコアな客が着くから売れるんだよなぁ。

 そのせいで社員は文句を言えず、その結果社長のその場その場の思いつきで要素が追加されていくことになる。

 それによって無限にして無駄な仕様変更が発生し、追加の開発と膨大なシナリオの変更作業が必要になり、無理なスケジュールと化していた。

 どれだけ控えめに言っても地獄という表現しかでてこないが、それだけでは終わらない。

 当然だが、ゲームは作るだけでは発売することが出来ないからだ。

 プレイヤーが楽しく遊べるように、開発した意図通りに動いているのかチェックし、不要なバグを見つけて修正するデバッグが必要になる。

 だが繰り返しになるが、スケジュールが逼迫しているにもかかわらず開発とシナリオの変更が発生すれば、当然デバッグをする期間も短くなる。

 つまり、そのしわ寄せが俺一人(・・)にやって来るのだ。

 ……この開発規模で、デバッグチームが俺一人とかありえねぇだろ。っていうか、一人だとチームですらないし。

 心の中で愚痴るも、現実は変わらないし『ユグドラシルフロンティア』のバグも減ってはくれない。

 修正したコードを実行すると、ディスプレイのキャラクターが、修正通り動き始める。

 ……全く、俺の意図通りに動いてくれるのはお前らだけだよ。

 そう思っている間に、画面上のキャラクター、『ユグドラシルフロンティア』のメインヒロイン、キスティ・グルベントが戦闘モーションに入る。

 モンスターとの戦闘中に、杖を持ったヒーラーの彼女が主人公のウェネル・ファイネルレの体力を回復した。

 もう何百回どころか、何千回以上見ている演出だが、俺はキスティの動きをシミジミと見つめる。

 ……やれやれ。ようやくここまでちゃんと動いてくれるようになったか。

『ユグドラシルフロンティア』には数多のバグが存在しているが、キャラクターの中ではダントツでバグが多いのがこのキスティだった。

 その理由は、ヒロインということで設定が他のキャラよりも多く確認が必要な箇所が多いから、だけではない(・・・・・・)。

 社長の口出しで初期の設定から大きく設定が変わっただけでなく、特盛でシナリオも変更が加えられたのが彼女だからだ。

 当たり前だが、当初予定していなかった内容が加えられるとその分追加の仕様変更と開発も必要となり、結果キスティは尋常じゃないぐらいの『ユグドラシルフロンティア』随一のバグキャラとなってしまっていたのだ。

 ……お前もある意味、俺と同じ社長の被害者だよな。

 バグが多いだけに、キスティがまともに戦闘パートで動いているだけで感慨深いものがある。

 もちろんキスティや他のキャラクターだけでなく、戦闘シーンや日常パートもすべからく『ユグドラシルフロンティア』はバグだらけだ。

 それだけに、一番バグの修正に時間を費やしてきたキスティには特別な思い入れがある。

 まるで授業参観で子供が元気に手を上げているのを見守る親の心境だ。

 ……まぁ、俺には子供も嫁もいないんだけどな。

 これだけのブラック企業に勤めていれば、出会いどころかプライベートの時間もほとんどない。

 というか、俺はもう一ヶ月家に戻れていないし、一週間は徹夜でデバッグ作業を続けている。

 ……そうだ。そろそろコインランドリーにいかないと、着替える服がなくなるな。

 そう思い、立ち上がろう、とした所で、視界が横(・)になる。

 ……あ、れ?

 自分が倒れたのだと認識した時には、もう自分の体は床に倒れていた。

 起き上がろう、と手を伸ばそうとするが、体が痺れたように満足に動かない。

 震える手が、ヨロヨロとキスティを表示するディスプレイに向けられる。

 ……く、そっ。まだ、あいつ、のバグ取りが、終わってな、いの、に。

 やがて思考も霧散して、俺の視界も暗転していき――

 

 ピピピピピピピピッ!

 ピピピピピピピピッ!

 

 ……っ!

 突然聞こえてきたアラーム音で、俺は目覚めた。

 どうやら疲労で倒れて、寝落ちしてしまったらしい。

 ……でも、変だな。俺が寝落ち対策でスマホに設定していた音じゃないぞ。

 と、そこでさらなる違和感に気づく。

 会社の床に倒れたはずなのに、目覚めたのはベッドの上(・・・・・)だった。

 もちろん、ブラック企業の株式会社フラットディメンションに仮眠室なんて立派なものはない。

 なら、俺は今一体どこにいるというのだろう?

 ……待てよ? この場所、なんだか見覚えがあるぞ?

 そう思いながら、今自分のいる場所を見回す。

 六畳にも満たない部屋には、ベッド以外にも棚やタンスが並べられている。

 窓にかけられた揺れるカーテンの隙間から零れ落ちてくる木漏れ日も、やはり見覚えがあった。

 それもここ最近、寝る間も惜しむようにして密にかかわっていた様な気が―――

「あっ!」

 思わず声を出したのは、心当たりに思い至ったからだ。

 間違いない。

 この場所は、ゲームのスタート地点(・・・・・・)だ。

 それも、俺がついさっきまでデバッグをしていた『ユグドラシルフロンティア』の。

 この場所は、いわゆる始まりの村に当たるマンティス村にある、主人公ウェネルの部屋に間違いないだろう。

 何度もデバッグを繰り返してきたから、見間違いということはあり得ない。

 ……それじゃあ、俺はゲームの中に入ってしまったのか?

 いわゆる、ゲーム転生というやつだ。

 でもそうなると、現実の俺はあの時死んでしまったということになる。

 とはいえ、一週間も徹夜で作業をしていたのだからさもありなん、といった所だろう。

 ……でもそうなると、俺が転生したキャラってひょっとして。

 そう思いながら、窓を隠しているカーテンを開けた。

 そして、窓の方へ視線を向ける。

 するとそこには、光の反射で主人公(・・・)のウェネルが映っていた。

 ブラック企業で働いていた時とは違い、ソルジャーの彼(自分)は引き締まった体をしている。

 ベッドに寝ていたことから、その部屋の住人のウェネルに転生した確率がかなり高いと思っていたが、どうやらその通りの結果となったらしい。

 転生先のキャラクターがわかり、俺はホッと一息吐くことが、全く出来なかった(・・・・・・・・)。

 何故なら窓の向こうに見えた光景は、マンティス村のものではなかった(・・・・)のだから。

 

「ど、どうしてラストダンジョンが主人公の部屋の窓とつながっているんだよ!」

 

 木漏れ日だと思っていたのは巨大なモンスターが掲げる豪火で、その上空で翼を広げる龍が超高速で飛び回る。

 凶悪な猛獣が地面で屍肉を貪り、人外のシャーマンが曇天渦巻くそれから稲妻を呼び出していた。

 その光景を見て、俺はあることを思い出す。

 俺が転生した『ユグドラシルフロンティア』には、まだまだ山のようにバグが残されていたということに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る