第5話:最強?の助っ人・権田

建設課は、役場の中でも異質な空間だ。土木工事や除雪を担当する彼らは、現場主義の荒くれ者が多い。その中でも、一際異彩を放つ男がいた。


「おい、そこの軽トラ! 車検通ってねえだろ! ちゃんと整備しろやオラァ!」


電話口で怒号を飛ばしているのは、金髪のリーゼントヘアに、刺繍入りの作業着(ニッカポッカ)を着崩した男。権田翔平、二十六歳。見た目は完全に地元の暴走族だが、これでも正規の技術職員である。


「あ、アニキ……いや、片桐さん! お疲れっす!」


片桐の姿を見るなり、権田は受話器を投げ捨て、直立不動で敬礼した。彼はなぜか、入庁直後から片桐を「アニキ」と慕っていた。以前、片桐が彼の書類の誤字脱字を徹夜で直してやった時、その「事務処理の仁義」に惚れ込んだらしい。


「権田くん、ちょっと相談が……」


「見ましたよ動画! ハンパないっすね! あのアングル、あの叫び! パンクっすよ! セックス・ピストルズっす!」


「いや、あれはパンクではなくコンプライアンスの叫びなんだが……」


リムが、権田の周りをぐるりと回りながら、品定めをするようにカメラを向けた。権田が「あぁん? 誰だこの姉ちゃん」とメンチを切るが、リムは動じない。彼女はスマホに文字を打った。


『 採用。運転手兼、筋肉担当 』


「はあ? 筋肉だぁ?」


権田が凄むより早く、片桐が事情を説明した。村の財政難のこと、一億円稼ぐ必要があること。権田は少し考えた後、ニカッと白い歯を見せて笑った。


「面白そうじゃねえすか。俺も最近、道路の補修予算がなくて暇してたんすよ。村のためなら、一肌も二肌も脱ぐっす!」


こうして、見た目が反社の技術職員が仲間に加わった。権田が案内したのは、庁舎の裏にある駐車場だった。


「足が必要っすよね? 俺の愛車、出しますよ」


そこには、村営バスがあった。ただし、普通のバスではない。フロントバンパーは鋭利に改造され、車体には『愛羅武勇(アイラブユー)姥捨』という筆文字がペイントされ、マフラーからは「ヴォン、ヴォン」と重低音が響いている。どう見てもデコトラだ。


「これ……公用車か?」


「へい。除雪用に馬力を改造したら、つい熱が入っちまって。車検はギリ通ります!」


「通るか! ……まあいい、今は手段を選んでいられない」


片桐は諦めて、デコトラバスに乗り込んだ。リムは助手席で、嬉々として車内の電飾(シャンデリア)を撮影している。このチーム、先が思いやられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る