「窓の外」

石橋 ももこ

ep.1,2,3「窓とほくろの謎」

1

 授業中、たまに私は、窓の外の景色が見たくなる。

けれど、見ようとするたび、ゆうじと目が合うので気まずくなり、反対の廊下ろうか側を向くことになる。


 目の前にいる担任の木村先生は、順番に答えさせたいときは、前の席から後ろにまっすぐ指していくタイプだ。


ちなみに、私の後ろの席はまいちゃんだが、

お腹が痛いと朝から保健室に行っているため今はいない。


 いつも私がわからない問題を、まいちゃんかたけしが簡単に答えてしまうから、他の列まで、先生が名前を順に呼んでいく機会はほぼない。


 たけしは、となりのあきひろと仲が良い。授業中にもよくしゃべっていて、少しうるさいけど…、

もしかして家で勉強をたっぷりしているタイプかな。


 そういえば、ともことまいちゃんは、ゆうじの右耳にほくろがあると言っていたけど、本当だろうか。

私は見たことがないんだよなぁ。


全然関係ないけど、ともこは背が高くて、あきひろは低い。

二人は席を替えた方が色々と良さそうだけど。




2

 給食のあとに体育って、本当につらい。

いや、何時間目でもつらいんだけど。


 男子はグラウンドをぐるぐると何周も走っている。

女子は木村先生と体育館でバレーボールだ。


保健室から戻って、座って見学しているまいちゃんに聞いてみた。


「ゆうじのほくろって、右耳のどのあたりなの?」


「今日は、耳たぶの真ん中ぐらいだったかな。」


いつものように小さな声で答えてくれたが、意味不明…。

いつの間にか近くにいたともこが口をはさむ。


「昨日より少し小さかったよね。」


見たことがない私を、二人でからかっているのだろうか。

 体育が終わり、教室に戻って汗を拭いているゆうじを見る。

ほくろは、ない。ように思えるけど。

 廊下を歩いていると、男子数人がしゃべっているのが聞こえた。


「プロッキーは水性だぞ。油性を使えよ。」


「水性とか油性とか。わかんねぇし。黒なら良いんだよ」


「まぁ、逆に描いちゃってるしな。」


 私は、人差し指と親指で、気に入らない左耳のほくろを触る。


窓の外を見ているふりをして、彼らを見ながら通り過ぎた。




3

学校指定ではないカラフルなチャムスのリュックに、

タブレットとノート類をしまう。

ゆうじのほくろのことはすっかり忘れて。


いつも通り図書室で宿題をする。

この時間でも自由に図書室を使えるのは、

この石橋中いしばしちゅうの良いところの一つだ。

そして、その良さが、他の生徒に全く伝わっていないことも、私にとっては良い。


窓の外が朱みを帯びてきた頃、


「お待たせ~。ごめんごめん!職員会議がちょっと長引いてさ。」


身長155センチ程度。流石さすがに中学生には見えないが、

高校生だと言われれば納得しそうになる童顔どうがんの女性が、

言い訳をしながら図書室の引き戸を開く。


「全然いいですよ。木村先生。」


「んじゃ、帰ろうか。」


生徒と教師は、玄関が違うので一旦別れて、駐車場で合流する。

私の目の前にある、

薄いピンク色の軽自動車のウインカーが点滅する。


「感動の再会だねー。」


恒例の儀式のあと、うなずきながら助手席に乗り込む。

いつも通り、身体を伸ばしながら、

後ろの席に、チャムスのリュックを優しく置く。


原信はらしんに寄るね。おかず買わないと。おにいからLINEが来てた。」


「もちろんいいですよ。木村先生。」




ep.4に続く

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