第3話 話せる食虫植物くん
ダンジョン<楽園>は何もかもが異常だった。大気に毒素独特の甘い香りもなく、水も果実も毒素がなかった。[鑑定]で安全性を確認できたし、実際に口にしてみて大丈夫だった。
この階層は森林地帯で、少し歩くと見たこともない魔物が一体いた。ハエトリソウの様な食虫植物だが、根っこを器用に動かして歩いている。目もないのにどうやってるんだろう。
「ご主人様、待ってたの!」
食虫植物が日本語を喋った!これが魔物の言葉を理解できるということなのか。
「私のことが分かるの?」
「もちろん!<楽園>のご主人様なの!でも名前は分からないの.....」
ハエトリソウがしんなりする。
「私はトモ。よろしくね。」
「トモ!いい名前なの!僕はシアワセグサなの。」
「それは名前?」
「名前?多分違うの。僕の友達も皆シアワセグサなの。」
「じゃああなたはニコね。」
全く表情のないシアワセグサがどこかニコニコしてる様に見えたから、ニコにしてみた。
「やったの!ご主人様様から名前もらったの!」
「よろしくね、ニコ。」
「よろしくなの。ニコは荷物運ぶの得意だから頼ってほしいの。」
ニコがかわいらしく跳ねているので、私は頭を撫でてあげた。厳密にはハエトリソウのあれは葉っぱなんだっけ。
「<楽園>はどんなところなの?」
私はニコに聞いてみる。
「<楽園>は神様たちが産んだ平和なダンジョンなの。でも神様たちは皆気まぐれだから詳しいことは分からないの。」
ダンジョンに神様が関わってることも、そもそも神様が存在することも、神様が複数いることも、全てが衝撃的だ。
「<楽園>には何があるの?そもそも何階まであるの?」
「それなら知ってるの!<楽園>は五階まであるの。ここは一階で僕みたいな草の魔物と、鳥たちがいるの。二階には動物の魔物とお魚さんたちが沢山いるの。三階は蜂さんと蚕さんの巣があるの。四階は綺麗な蜥蜴さんがいるの。五階は賢者様と騎士様がいるの。困った時は皆、二人のところに行くの。」
ダンジョンは普通、各階層が広大で端から端まで行くのに時速60kmで走るラプトルでも二日はかかる。更にダンジョンの最下層は未だ未踏の地、アメリカでは五階層の存在が確認されているが、大抵のダンジョンは二階層までの開拓が終わっている程度で、三階層の入り口に前線の基地がある程度だ。ダンジョン全域の調査となるとどこも一階が終わった程度だ。
「ニコ、案内してくれる?」
「お任せあれなの!」
ニコの案内で一階を散策してみると、面白いことがわかった。このダンジョンは端から端までで歩いて四日程度の小さなダンジョンだった。スキルのおかげもあるが、難所の少ない地形は移動が容易だ。時速3kmで1日12時間歩いたとして四日なら、単純計算で144km。東京駅から富士山までくらいの距離だ。普通のダンジョンは約1,500km程度であることを考えるとかなり小規模だ。
しかし、生態系の多様性は<楽園>の方が優っている。普通のダンジョンでは一階層辺り5種類くらいの魔物と10種類くらいの植物が生息している程度だ。しかし、<楽園>一階層には発見できただけで8種類の魔物が暮らしていて、植物に関しては50種類以上発見できた。
更に驚くべきは、ダンジョンなのに魔物以外の生き物が暮らしていることだ。キジや七面鳥、鹿に猪などゲームミート(野生動物の食肉)が豊富だ。ニコが私の為に兎を仕留めてくれたりもした。ニコ曰く、ここの魔物は皆、光合成をしながら野生動物を食べて暮らしているそうだ。
昼夜の寒暖差は殆ど無く、気温は23度から25度を保っている。綺麗な水場も多くて果物も豊富、野営に最適で、調査は容易だった。
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