手鏡
木村玄
第1話
ギターに沈んだベースが鼓動を揺らす。
隣にいた記憶すらも、激しく揺らされた。
ライブハウスにいた。
キャパは800人程度。
少し大きい古いライブハウス。
グッズは買わず、静かに待つ。
「整理番号A300〜320のお客様」と受付が言う。
A310と311のチケットをを持った私は列に並んだ。
まだ人が待っている。
裏倉庫のような地下で。
500人程度。
電波はない。
そいつらには私は煽るように見えているだろう。
そう、辺りを見回していた。
君がいた。
正しくは私もいた。
さらに泣いているように見えた。
涙目程度で。
多分チケットを2枚持っていた。
そう見えた。
一人だった。
私も一人だった。
付き人の予定が合わなかったのかと思ったり、
既に感動しているかと思ったり、
恋人に振られたのかと思ったり。
「まあいいや。」と心で呟いた。
列が進んでいて、私の番がきていた。
2枚持っていたチケットを一つ落とした。
受付の人が拾って、半券を切った。
渡そうとしていたが、手を引かれた。
一言。
「大丈夫ですか。」
私は困惑した。何を言っているのか。
受付の男性は何も言わず、
ポケットから手鏡を出し、開いた。
鏡に映る私を見て、
私は静かに笑みを浮かべた。
手鏡 木村玄 @kimumu14
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