一月三日【梅】

05

花言葉は「高潔」「澄んだ心」「潔白」



06

 レヴィとタニアが生まれるよりも遥か昔。


 人里から離れた場所で、鬼を祀る祠が一つ。


 赤い肌、鋭い牙、夜になれば大地を震わす唸り声。

 人々は、彼を恐れ【災鬼】と呼んだ。


 しかし、その鬼には名があった。


 亜人種、猛鬼族。

 鬼の名はダンテ。


 争いを嫌い、静かな心をもつ者。

 のちの七英雄として、世に認められる戦士である。



 冬の終わり、雪の残る山道にて。

 ダンテは毎年同じ場所で足を止める。


 崖のそばに一本だけ生える梅の木だ。

 凍てつく空気の中、他の花に先駆けて咲くその姿がダンテは好きだった。


 強く、気高く、そして澄んでいる。



 ダンテの手が花に触れることはない。

 自分よりも小さなその木を見て、折るなんてことも決してない。


 ただ、吹雪から花や枝を守るため、夜な夜な風除けとなって立つだけだった。


 ダンテの身体は丈夫で、冷気などなんということはなかった。

 梅の花が、温かい陽を浴びる日が来るのであれば、それでよかったのだ。



 とある夜、冒険者の娘が一人、彼が棲まう山に迷い込んだ。

 魔物から逃げているうちに、方向を見失ってしまったのだろう。


 娘は足を痛め、凍える身体を痛々しく丸めながら歩いていた。



 ダンテは、娘の前にゆっくりと姿を現した。



 悲鳴があがる。

 恐怖に震える娘に、ダンテは近づこうとはせず、山の麓の方を指差し、低い声で言った。



「……怪我をしている。あまり動かさないほうがいい」



 ダンテは素早く魔法を展開し、娘を雪や風から守るように周囲の土を隆起させる。

 自身の外套を地面に敷き、娘をそこに座らせる。


 火を起こし、僅かでも身体が温まるよう気遣う。



「あなた……災鬼じゃないの?」

「知らぬ。我はここで山と共に生きているだけだ」



 娘は目の前の鬼が、自分に害をなす存在でないことを信じることにした。

 緊張の糸が切れたのか、娘は気を失うように眠りについた。


 翌朝、娘が目を覚ますと、吹雪は晴れ、温かい日差しが山に降り注いでいた。

 雪を溶かすほどではないにしろ、ここ最近では珍しい快晴だった。


 娘のそばに鬼の姿はなかった。

 そこにあったのは、消えかけの優しい焚き火と、鬼が娘にかけていった外套、そして小さな袋に詰められた干し肉だった。


 娘は、どこにいるかもわからない恩人に頭を深々と下げ、命があることに感謝した。



 春、梅の花は満開となった。

 その木々を静かに見守る鬼は、今日も森と共に生きる。


 ただ、今年の春は今までと違い、一人ではなくなった。


 明るい声の娘が、興味深そうにダンテにいろんなことを尋ねる。

 彼は丁寧に応え、また歩き出す。


 七英雄、聖拳のダンテ。

 彼がそう呼ばれるのは、それから数年後の話である。

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