時だけが静かに流れる

HillCypher

第1話

ある夏の日のこと


夕風が人混みを自由気ままに駆け抜け、触れた人ひとりひとりに盛夏の暑気を添えていく。


動きを止めた観覧車の前で、


少年はわからなかった。


自分の頬を伝って流れているのが、


緊張の汗なのか、


それとも悔恨の涙なのか。


十二時の鐘が鳴り響く。


新たな一日が始まったのか、


それとも始まっていないのか。


万般の沈黙の中、


ただ時間だけが静かに流れていく。


時琴御槿(ときこと みき)の世界では、今日と明日に、それほど大きな違いはなかった。どちらにせよ、同じ時間に目覚まし時計に起こされ、同じ電車に乗って学校へ向かい、同じ時間に授業を受け、同じ時間に授業が終わり、食堂で同じサンドイッチを買い、自動販売機で同じ炭酸飲料を買い、同じ場所でそれらを食べるのだから。


唯一の違いと言えば、日々体感する温度と、日々読む本の内容くらいだろうか。


級友の目には、時琴は実に風変わりな人間に映っていた。誰とも決して話さない。たとえ誰かが積極的に話しかけようとしても、彼は事前に察知したかのように、どこかへ行ってしまう。先生がたまに点名をしなければ、クラスの多くの生徒は自分のクラスにそんな人物がいることすら知らないだろう。名前を、


時琴御槿というのだが。


しかし実際のところ、時琴は別に変人ではない。誰とも話さないのは、誰かと話す時に必ず緊張してしまい、元々言おうとしていたことを支離滅裂な言葉に変えてしまい、普通の会話を続けられないほど気まずいものにしてしまうからだ。そして級友の話しかけを避けるのも、ただの経験則に過ぎない。


話す勇気がなく、話し相手もいない時琴は、仕方なく膨大な時間を読書に費やした。様々な主人公に寄り添い、様々な冒険をし、行間から様々な世界を目撃するのである。


下校のチャイムが鳴り、時琴は手にしたペンを置き、目の前の本を閉じた。先生の講義内容は以前に聞いたことがあったので、理解するのはさほど難しくなかった。時琴は悠長に机の上を整理しながら、昨日読んだ小説の続きがどこだったか思い返していた。


ふと、時琴はある級友が自分の席の方に向かっているように見えたことに気づいた。


時琴は即座に悟った。この級友は間違いなく、自分に話しかけに来るのだ!


危険!!!!


時琴の脳裏が絶えずそう叫ぶ。時琴は手元の動作を速め、ついに級友の言葉が届く前に、飛ぶように教室から逃げ出した。


廊下を歩きながら、時琴はさっきの「波乱万丈」な経験をまた思い返した。彼は息を吐いた。時琴自身にも、それが嘆息なのか、安堵の息なのかさっぱりわからなかった。


「今から何をしよう?」今は午後三時、家の夕食時間まであと数時間ある。普通の高校生なら、この時間をクラブ活動に充てたり、友人何人かを誘って商店街をぶらつき、談笑したりするだろう。だが時琴には友人がおらず、商店街をぶらつくのも好きではない。そしてクラブ活動は、普通の人との交流さえ問題の時琴にはまだ難しすぎた。


行くあてのない時琴はあれこれ考えた挙句、最終的な決定を下した――昨日と同じく、図書館へ!


時琴が通う府立高校にも図書館はあったが、時琴は一度も入ったことがなかった。一つには、図書館には生徒が多すぎる。もし出会ったら……「時琴君、本が好きなんですね!」そんな話し掛けは時琴にとってまさに悪夢でしかないからだ。二つ目には、学校内に設立された図書館は、どうしても騒がしくなりがちだ。だから時琴は左京区の府立図書館を好んだ。繁華街の中に位置しているが、図書館内の静寂は、郊外ですらなかなか得難いものだった。


バスが駅に停車し、時琴の顔に差していた日光を遮った。時琴は顔を上げ、バスの番号を確認した。「市営5系統」。時琴は本を閉じ、立ち上がろうとしたその時、突然何かを思い出し、再び座り直し、閉じたばかりの本を開き、運転手に気まずそうに笑った。運転手も時琴の意図を理解し、ドアを閉め、満車の乗客を乗せてバス停を出て行った。


初夏の日差しが時琴の本の上に落ち、時琴は手持ちの本を直視できなくなるほどまぶしかった。彼は本を閉じ、顔を上げ、この十六年間生きてきた街を見つめた。


十六年間、彼はこの街を半步も出たことはなかった。だが時琴は一度も残念に思ったことはない。なぜなら京都は実に美しく、十六年来の付き合いですら、時琴に一片の飽きも感じさせたことがないからだ。


もしかすると、これは愛着ではないのかもしれない。ただの……現状維持、というやつか。


また一台のバスが駅に入ってきた。番号札に光るのは相変わらず「市営5系統」。だが今度は、時琴は立ち上がり、バスに乗り込んだ。


図書館に足を踏み入れたとたん、エアコンの冷風が時琴の身にまとった暑気を奪い去った。


館内は非常に静かで、時琴はこの静寂を破ることを恐れ、一歩一歩を非常に注意深く踏みしめた。


カウンター前で、時琴は深く息を吸い、勇気を振り絞った。


「あの……」


内心の準備はできていたものの、司書の女性の熱い視線が時琴の目と真正面から合った時、時琴はやはり驚いてしまった。


「こんにちは。何かお手伝いできることはありますか?」


時琴はわずかにうつむき、その火のように熱い視線を避けた。


「あの……私、本を返却しに来ました!」


時琴は胸に抱えていた本を差し出した。一緒に貸し出しカードも渡す。


司書の女性は微笑みながら時琴からそれらを受け取り、少しからかうように言った。


「少年さん、本がお好きなんですね!」


「あ……はい!」


時琴の緊張と恥ずかしそうな様子を見て、司書の女性の笑みはさらに輝いた。


「はい。これでまた本が借りられますよ」


「どうもありがとうございます!」


時琴は司書の女性から渡された貸し出しカードを受け取り、宝物でも手に入れたかのようにそれを手のひらに載せ、くるりと向きを変えて図書館の奥へ歩いていった。


書籍は人類の知恵の結晶であるなら、図書館はこれらの珍宝を収集し、収蔵する場所だ。府立図書館の蔵書量は有名な図書館には及ばないが、時琴がこれらの異なる知恵の結晶が陳列された書架の脇を歩くたびに、時琴は震撼させられる。人類など宇宙の中の塵に過ぎない。しかし彼らは様々な言語、様々な文字を用いて、宇宙よりもはるかに数百倍も巨大な世界を一つ一つ構築してきた。これは何たる偉業だろうか!


「今日は何を読もう?」


時琴は考えながら、様々な分野の間を漂った。


「神話? いやいや、神話はまだ遠すぎる。冒険? でも最近『ゴンバの大冒険』を読み終えたばかりだ。推理? 刺激的だが、私の推理力はいつもあまり良くない。もし完全に主人公の視点に従って少しも考えずにいれば、推理小説本来の楽しみを失ってしまうだろう……」


時琴は考えながら、書架の間を絶えず行きつ戻りつした。


どう選べばいいのか、まったくわからない……


「パン!」


時琴の頭は突然一陣の激痛を感じた。


「痛っ……」


時琴は頭を揉みながら、ようやく自分にぶつかったのが、書棚から滑り落ちた一冊の本であることをはっきり見た!


その本は静かに床に横たわり、重力によって無作為に開かれたページを時琴に見せていた。


時琴はゆっくりとしゃがみ込み、視線はそれらの文字に引き寄せられた。彼はもう何の痛みもまったく気にしていなかった。信心深い信徒のように、本をゆっくりと持ち上げる。


「強光の彼方に隠れた星辰


眼前に絶えず墜ちていく落日


地平線上に早已に消え去った晨曦


そして夕焼けを凝視する彼女


その時の私は気づいた


この夕日に染め上げられた全てが


あの時代の私が


ずっと追い求めていたものだと」


この文章は神の啓示などではないが、時琴の興味を引き起こすには十分だった。


その時の時琴はもう自分の脳を制御できず、これらの言葉の奥深くに隠された意味を絶えず思索した。


時琴は本をゆっくりと上げ、今日こそこの本を読み終えようと心に決めた!


時琴は席を見つけて座り、厳かにそして神聖に本を机の上に置いた。


この時になって初めて、時琴はこの本のタイトルをはっきり見た。


『人生の負け犬』


時琴は深く息を吸い、正式にこの本を開いた。


もう一つの世界への扉を開く……。


夕焼けの残光が幾重もの障害をくぐり抜け、小説の文字の間隙を正確に照らすまで、時琴は小説から現実世界に戻ってきた。


時琴は顔を上げ、壁に掛かった時計を一目見た。


午後六時。家の夕食時間まであと三十分。今図書館を出発すれば、夕食時間前に必ず家に着ける。しかし…


この本はもうすぐ読み終わりそうだ!


そこで時琴は決断した。あと一ページだけ読んでから帰ろう!


そして彼はうつむき、再び物語の世界に戻っていった。


【生きることは、苦痛である。


なぜなら他者と絆を結ばなければならないからだ。


家族の絆、友人の絆、恋人の絆。


それらの社会的関係を断ち切った後、あなたに残るのはただ「存在」ということだけだ。


苦痛をまだ感じられるから、あなたは生きている。


苦痛が何かを知っているから、愛するために全てを顧みない。


ただ存在していさえすればいいのだ、と】


「生きることは苦痛である。しかし、心臓の鼓動、血液の流れがもたらすものは、単に『存在』という事実だけではないはずだ」。時琴はそう考え、一息ついた。このページは末尾に達し、自分も家に帰らなければならない。


時琴は本を最後のページにめくり、指で本の残りの厚さを測った。


「残りは、結構ある。あと一時間あれば読み終えられるだろう」。


時琴は残りの物語をすぐにでも読み終えたいと思ったが、このわずかな内容のために、また司書の女性に手数をかけるのは……それに今日はこの本に夢中で、他の本をまったく選べなかったし…。


だから、明日来て読み終えよう!


時琴はページを押さえていた親指を離し、ページが流れのように自分の指の間から滑り落ち、表紙の方へ流れていくのを見た。


最後のページが時琴の手元に留まった時、彼はページの上にある、普通ではないものに気づいた。


それは付箋紙だった。それは無造作にそのページの左上に貼られていた。


おそらくは読書メモを取るのが好きな誰かが、うっかり落としたのだろう。


時琴はそう考えた。


好奇心はやはり彼を駆り立て、その付箋紙に視線を落とさせた。


水滴が湖面に落ちるかのように。


静寂で、しかし陣陣の波瀾を巻き起こす。


付箋には書いてあった。


【生きることは苦痛である。しかし、心臓の鼓動、血液の流れがもたらすものは、単に『存在』という事実だけではない。まだ救いを得られる希望があるのだ。】


『生きることは苦痛である。しかし、心臓の鼓動、血液の流れがもたらすものは、単に『存在』という事実だけではない。まだ救いを得られる希望があるのだ。』

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