紅葉舞い時、君に逢う

夏目よる (夜)

プロローグ 紅葉の山に眠る乙女

十月の箱根は、一面の紅葉に染まり、まるで燃え盛る炎のようだった。


私は膝丈の紅葉の上を踏みしめながら山道を上っていく。靴底が葉っぱを碾るささやかな音が、この山林に唯一の活気をもたらしている。祖父は言っていた——神社の奥の紅葉林には「紅葉神様」が住んでいて、紅葉の季節になると乙女の姿になって紅葉の山に眠り、彼女に出会えた者は「再会」に関する一つの願いが叶うと。


本来、私はこうした怪談めいた話など信じていなかった。だが紅葉林の奥深くで、紅葉の山に横たわる乙女を見た瞬間、その考えは吹き飛んだ。


彼女はワインレッドの杢編みのセーターを着て、薄いグレーの格子スカートが紅葉に映えて暖かな色を纏っていた。栗色のカールが紅葉の中に広がり、溶けた陽だまりのように柔らかかった。頬を手のひらに寄せ、指先には濃い紅葉を摘んでいて、目尻が少し上がった翡翠のような緑色の瞳は、木漏れ日をじっと眺めており、まるで長い夢から覚めたばかりのような儚げな雰囲気だった。


風が吹いて紅葉が彼女の髪に舞い落ちる。彼女はそっと目を眨かすと、緑の瞳の迷いが消え、私の視線とぶつかった。


「あなたは誰?」

声は紅葉シロップに浸かったように甘く、その裏には微かな警戒心が潜んでいた。


私は呆然と立ち尽くし、手に持っていた祖父からもらった紅葉饅頭を落としそうになった。目の前の乙女は非現実的に美しく、まるで紅葉の光と影から切り取られた絵画のようで、気軽に近づくのも畏れ多く感じた。


「浅羽蓮です。」

慌てて落ち着きを取り戻し、彼女と目線が合うようにしゃがみ込んだ。「ここに紅葉神様がいると聞いて、ただ……運試しに来ました。」


彼女は聞くと、突然笑い出した。上がった口角は紅葉の縁のように柔らかい。

「紅葉神様?それじゃ、私が神様だと思うの?」


指先をそっと上げると、身辺の紅葉が無風なのに自然と回り、彼女の腕を一周してから、私の足元にそっと落ちてきた。木漏れ日が葉の隙間を通り、彼女の緑の瞳に細かな光の斑点を投げかけ、まるで一つの秋の星河を宿しているようだった。


回る紅葉を見て、私は心臓が一瞬止まったような気がした。

「……本当に神様なんですね?」


「違うわ。」彼女は耳元に摘んでいた紅葉を飾り、笑いながら言った。「私は楓、この紅葉林を守っている精霊よ。神様什么的じゃないわ。」


スカートについた紅葉を払い落として立ち上がると、私より少し背が低かったが、どこか人を惹きつける強い存在感があった。

「再会の願い、でしょ?話してみて。この紅葉林の範囲内なら、何でも叶えてあげるわ。」


私は彼女を見つめ、三年前に箱根を離れた姉の姿が頭に浮かんだ。


姉の名前は浅羽楓で、眼前の精霊と同じ名前だ。彼女は紅葉が大好きな少女で、三年前、絵を描く夢を追って一人パリへ行った。旅立った日も紅葉の季節で、紅葉林の入り口で私にこう言っていた。

「蓮、自分が一番得意な紅葉の絵を描けたら、必ず帰ってきて、一緒に紅葉を見るね。」


だが三年間、姉からはたった三枚の絵しか届かなかった。最後の一枚はパリのプラタナスの絵で、箱根の紅葉の話も、家に戻る話も、それ以降一言もなかった。祖父は言う、姉は異国で根を下ろし、故郷の紅葉林を忘れてしまったのだろうと。


「姉と再会したいです。」私は声を潜めて言った。「彼女に、この紅葉林を見に帰ってきてほしいんです。」


楓は首を傾げ、緑の瞳に疑問の色が浮かんだ。

「再会の願いは、『等価の絆』を代償にしなければ叶えられないの。何を捧げる覚悟がある?」


「等価の絆?」私は呆然とした。


「あなたが一番大切にしているものよ。」楓は指先で一枚の紅葉を撫でると、葉っぱは一瞬透き通り、紅い水晶のように輝いた。「例えば、一段の記憶、一つの習慣……あるいは、この紅葉の季節が終わるまで、私と一緒に紅葉林にいること。」


「私がついています!」

私は迷わず答えた。祖父の体は不調で長時間紅葉林を守ることができず、私は休学中で本来何もすることがなかった。何より、姉を帰してもらえるのなら、こんな代償は何もない。


楓の瞳に意外な色が閃き、すぐに笑顔になった。

「いいわ。じゃあ今日から、あなたは私の『紅葉の相伴』ね。毎日紅葉林に来て私を伴ってくれれば、紅葉が全部落ちるまでに、姉さんを戻してあげる。」


彼女は手を伸ばし、私の額に指先をそっと触れた。ぬくもりが伝わり、何かが額の中心に宿ったような感覚がした。


「これは紅葉林の印よ。これがあれば、あなたは私を見つけられるし、私の気配も感じられるわ。」


風が再び吹き抜け、山一面の紅葉がささやき、この約束を証明するように響いた。私は目の前の乙女を見て、今年の紅葉の季節は、きっとこれまでのどの年とも違うものになるだろうと感じた。

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