結婚代行‐あなたも籍を入れませんか?-

シェリー・ストーン

ある日の昼過ぎ

 休憩室に入ると誰もいなかった。

 一人で飯を食うのが好きな俺にとっては好都合。

 あまり広い部屋ではないから、数人で休憩となるとどうしても近くで向かい合って  飯を食う構図になる。

 適当に手前のパイプ椅子を引いて腰を下ろす。

 今日は平日だってのに客が多かった。

 だが、家族連れは殆ど見受けられなく一人か会社仲間っぽいグループの客ばかり。

 寧ろ最近はそういう客層がほとんどだ。ここ数年でも平日休日問わず家族連れを見かけなくなった気がする。

 ファミリーレストランという呼び方も近いうちに無くなりそうだなと思いつつ、制服のポケットに手を入れてスマートフォンを取り出す。

 電源を入れてLINEをチェックするがアイツからはまだ返事がきていない。

 きっと仕事が忙しいのだろう。

3日前だって残業があったと言っていたし。

定時であがれるフリーターの俺とは違うのだ。

 送ったメッセージに既読が付いているかの確認は少し怖いので控えることにする。

 適当にネットニュース動画を流しながら持参した弁当を広げて食べ始める。

 動画内では女性アナウンサーとコメンテーターの男性が語り合っていた。

 『25~29歳の未婚率は女性で約85%、男性に至っては93%と過去最多となっている現在ですが、なぜ最近の若い世代は結婚をしないのでしょうかね?』

 『まあ、価値観が合わないとかねぇ、如何せん娯楽が多いのでねぇ、一人でも寂しくない社会ってのが出来上がっちまってるんですけど、一番の問題は独身税じゃないですかねぇやっぱ。』

 『やはりそうですよね。物価高騰が進む中、特に若い世代は低賃金で結婚どころじゃない感じが伝わってきますね。』

 今年で28歳を迎える俺には刺さりまくる内容だなと聞きながら食っていた俺だったが、その表情が急に固まり徐々に怪訝な顔になっていった。

 だが表情が固まった後、怪訝な顔になったのは動画の内容が独身である俺のダメージを抉ったからではない。


 味が変だ。


 すっかり食い慣れた道端の雑草炒めだが、今日のはなんだか微かにアンモニア臭がした。

 「(オイオイ。今日は犬のションベンが隠し味のスパイスってか?ついてねえ。いや、ある意味ついてるか。こりゃあ雑草を摘むルートをまた変えなきゃいけねえな・・・・・。)」

 貧乏だから仕方ないにしろこれで腹を壊して病院送りになったらそれこそコスパが悪い。過度な節約も考え物だなと思いつつ鼻をつまみながら一気に片付ける。 

 『結婚はお金がかかるんでねぇ。それもこれも独身税が悪いでしょこれは!』

 コメンテーターに火が付き始めた辺りで、ガチャリ!と休憩室のドアが開いた。

 「あっ。ごめんね~かんざきくん。お客さん増えてきたから戻ってきてもらっていいかな?」

 あきらかにフロアがバタついているなと分かる表情をした女店長の佐伯さんがドアを半分開けたまま、やや前傾姿勢で助けを求めてきた。

 「わかりました。すぐ行きます」

 店長が申し訳なさそうに小さく頷きドアを閉めると、小走りで持ち場に戻っていく足音が聞こえた。

 『結婚率をあげたいなら独身者からの搾取をやめろって話なんだよなぁ!なんで見ず知らずの夫婦を支援しなきゃならんのだよ!?親子支援は国がやれっつーの!』

 『ま、まあ、そうですよね~』

 ふとスマートフォンの画面を見ると熱くなったコメンテーターの話を苦笑いを浮かべながら聞くアナウンサーが映し出されていた。

 少しいたたまれない気持ちでスマートフォンの電源を切ると俺も休憩室を後にした。

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結婚代行‐あなたも籍を入れませんか?- シェリー・ストーン @shippitutarou-zeroshiki

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