「クリスマス暇ですか?」とバ先で後輩がニヤニヤと聞いてきたので、「シフト入れたから代われないよ」と言ってやった。「じゃあ私も入ろっと」と言ってきた。

そらどり

聖夜のお誘い?

「そういえば先輩。クリスマスって暇ですか?」


 バイト先。駅前の洋菓子店のレジで立っていた俺―――喜多川侑きたがわあつむは、隣の後輩からそう聞かれて小さく身構えた。


 本日は十二月の第一週目の土曜日。

 店舗前の通りはイルミネーション用のLEDライトが無数に飾られていて、街並みが月末に迫るクリスマスのカラーで染められているのが分かる。


 当日になれば毎年多くのカップルが訪れ、ウチの売り上げにも大いに貢献してくれるのだが、今は置いといて。

 そのクリスマスが迫る中、後輩のこの問い掛けは男として十分に注意しなければならない。


 恐らく普通の思春期男子高校生なら、ここで脳内に鐘が鳴るだろう。

 ―――デートのお誘いだ!! 聖夜だ!! イルミネーションだ!! 彼女だ!!


 だが、俺は浮かれない。

 何故なら、現実を知っているから。


 この質問が意味することは一つだ。


(彼氏とクリスマス過ごしたいけど、シフト被っちゃってるから代わってほしい)


 と、こんなところだろう。


 悲しいことを言うが、クリスマス当日は例年通りスケジュールは空いているし、別に代わってやってもいいとすら思っている。

 ただ、素直に首を縦に振るには、隣の後輩―――白鷺しらさぎめぐみはちょっと生意気なのだ。


 白鷺は一学年下の後輩で、俺とは別の高校に通う女子高生だ。

 年不相応に落ち着きのある彼女だが、顔立ちは整っていてスタイルも良く、同級生から人気のある女子らしい。その評判は俺の通う隣の高校にも広がっていて、噂ではイケメンの彼氏がいるとか。まあ、俺には関係ないけど。


 しかし、いざ口を開けば先輩いじり。笑えば刺してくるタイプ。所謂”可愛いけどムカつく後輩”というカテゴリである。

 そんな奴のお願いを素直に聞くのは何か嫌だ。ここで了承したら絶対「やっぱり。先輩は暇そうだから代わってくれると思ってましたよ」とか一言刺してくるのがオチだ。


(てかそもそも、当日シフト入るって申請出しちゃってるからなぁ)


 期末テストが近い事情もあり、今月はシフトを減らすよう配慮してもらっている。店長に申し訳ないし、その分月末はなるべく入ろうと思っていた訳である。


 だから俺は、限界まで涼しい顔で言ってやった。


「今年も暇なもんで、もうシフト入れちゃったよ」


 白鷺が、目を細める。


「え、先輩。せっかくのクリスマスなのに入るんですか? なんか当たり前みたいに言いましたね」


「いいだろ別に。予定がないのは罪じゃない」


「でも確かに、先輩って彼女いたことなさそうですもんね〜」


「うっせ」


 一言余計だと言い返しつつ、内心「悪いな」と思った。

 噂の彼氏との甘いクリスマスを潰された可哀想な女子高生。とはいえ、従業員なら他にもいるし、その人に代わってもらえば何も問題ないだろう。俺には無縁の素敵なクリスマスをどうぞ過ごしてくれ。


 ……そう思っていたのだが。


「じゃあ、私も入ろうっと」


「……は?」


 あまりにも自然な流れで言われて、俺の脳が追いつかない。


 い、今なんて? 入るって、シフトに? 私もって、わざわざ俺に合わせて?


「え、それってどういう―――」


 堪らず問い詰めようとするも、正面の自動ドアが開き、入店音とともにお客さんが入ってきたので慌てて中断する。

 クリスマスケーキの予約注文を受ける間に、入店音が絶え間なく続く。さっきまで閑古鳥が鳴いていたのに、イベント前特有の空気が一気に押し寄せてきた。


 オーダーを聞き、ショーケースから商品を箱詰めし、会計をし、白鷺に続きを聞くどころではない。

 チラッと隣を伺うが、白鷺も大量注文が入ったようで慌ただしく手を動かしていた。


 結局、その日は聞けなかった。


 バイト終わり、休憩室で「さっきの話なんだけど……」と声をかけた時には、彼女は一足先にタイムカードを押した後だった。


「あ、お疲れさまです先輩」


 軽い手振り、小さな笑み、華奢な背中。

 俺のモヤモヤだけを置いて、扉の向こうへ消えてしまった。


(今から連絡して聞く? いや、それは野暮だろ)


 「さっきの『私も入ろうっと』って、どういう意味?」なんて文章にした瞬間、俺が勝手に意識してるのがバレる。

 ただでさえバイト先の人から業務以外の連絡なんて貰いたくないだろうに、そんな変な文章が送られてきたらキモイと思うに決まっている。


 しかも、タイミング悪く今月はシフトを暫く減らすせいで、次に白鷺と被るのは―――クリスマス。

 つまり、当日までこのモヤモヤを抱えたまま過ごすことになってしまった訳である。




◇◇◇




 クリスマス当日を迎えた。


 店の入り口に吊られたリースが、いつもより眩しく見えるのは気のせいだと思いたい。

 平然を装いながら制服の上にエプロンを着け、手を消毒して、俺は白鷺とレジに立つ。


 白鷺はいつも通りだった。髪をまとめ、前髪をピンで留めて、仕事モードの顔。

 ……いや、いつもより少しだけ、可愛く見えるのは気のせいだろうか。クリスマス補正ということにしておく。


「てかさ、せっかくのクリスマスなのにバイトって、華の女子高生としてどうなのよ?」


 忙しくなる時間帯まで少し余裕があったので、雑談のフリをして遠回しに真意を探る。

 通りの様子を眺めていた白鷺は、顔をこちらに向けると、何気ない仕草で返事する。


「いいんですよ。彼氏もいないことですし。それより今はバイトの方が大事ですから」


「そ、そうか……」


 さらっと彼氏いない宣言されてしまった。


(つまり、彼氏がいるっつー噂はデマだったってことか。まあ、本人が否定してる訳だし、実際そうなんだろうけど……)


 それにしても意外というか、白鷺くらい美少女なら彼氏がいてもおかしくないのに。

 とはいえ、普段から業務内容やら互いのプライベートな話をすることはあっても、彼女の恋愛事情までは知らない。決して仲が悪いとかではなく、むしろ良好だと思うのだが、相手が女の子の後輩だからか踏み込むのを変に躊躇してしまう。


「それは……あれか。金が欲しいから、とか」


「まあ、それもありますけど。と言うか、何て人聞きの悪い。お金しか興味がない奴みたいに」


「悪かったって。ただ、好き好んで今日シフト入れる奴なんて珍しいからさ」


「それ、先輩も人のこと言えませんよ」


「……確かに」


 ぐうの音も出ない。

 事情が事情とはいえ、自ら入れた俺は好き者だ。今更自分を棚に上げるのも見苦しい。


 でも、納得はできない。

 白鷺が今日、シフトを被せてきた理由。それが俺の予感している通りなのか、それとも都合の良い妄想なのか。ハッキリさせない限り、あの日から抱え続けているこのモヤモヤが晴れることはない。


 悩む俺の横顔を覗いていた白鷺が視線を下にやると、再びこちらを窺いながら言う。


「……そんなに気になるなら、教えてあげましょうか?」


「え?」


「私が今日シフトに入った理由。先輩、知りたくてしょうがないって顔してますよ」


 どうやら見破られてしまったらしい。少し悪戯っぽく微笑まれてムッとしたが、これ以上探っても埒が明かないのも確かだ。


「……いいのか?」


「確か先輩って今日の上がり、私の三十分後でしたよね」


 白鷺は、言葉を一拍置くと、ほんのりと頬を赤らめて続ける。


「……私、先輩が上がるの待ってますから」


 意味深が過ぎる。


 その瞬間、店内のBGMが妙にロマンチックに聞こえた気がした。いや、多分気のせいだ。俺の脳が勝手にクリスマス仕様になってるだけだ。

 

 ちょうど会話を終えたタイミングでお客さんが来店し、動揺を宥めながら業務に取り組む。

 しかし、レジの数字が目に入らない。箱詰めの手元がぎこちない。お客さんの問い掛けに変なタイミングで頷いてしまい、白鷺に肘で小突かれる。


「先輩、仕事」


「……はい」


 心臓だけが忙しい。


 その後、何とか平常心を取り戻すと、俺はいつもの調子で接客を続ける。

 白鷺が退勤時間を迎えてバックヤードに下がった途端にラッシュを迎えるも、入れ替わりのパートさん達と捌きつつ、俺が上がる頃には落ち着きを取り戻していた。


「んじゃ、お疲れ様でーす」


 帰りの身支度を済ませた俺は、去り際に店長達に挨拶しつつ裏口から外へ出た。


 夜の空気が刺さるほど冷たい。吐く息が白い。大通りのイルミネーションがやたら綺麗に光っている。


 白鷺はどこだろうか、と周囲を見回し……右手のコンビニの前で彼女の姿を見つけた。

 まとめていた髪はマフラーにしまい、前髪のピン止めを外し、フェミニンな雰囲気に様変わりしている。髪型と服装で印象がこうも変わるのかと驚く。


「……本当に待ってたのか」


「待つって言いましたし」


 しれっと可愛いこと言うな。


 わざわざ寒い外で待っているなら休憩室で待ってくれていたらよかったのにと思ったが、彼女の性格的に皆が働いているのに居座るのは居心地が悪いのかもしれない。真面目な奴だ。

 恐らく直前までコンビニの中で待っていたのだろうが、待たせてしまった側としては気が引けたので、店内で温かい飲み物を買って来て渡す。


「そんな気を遣わなくていいのに」


「俺が気になるの。いーから貰っとけ」


「……ありがとうございます」


 片手でキュッと握りながら礼を言う白鷺。

 もう一方の手には紙製の小さい手提げ箱があり、俺の視線に気づいた彼女はそれを持ち上げる。


「これですか? さっき帰り際に店長から、クリスマスだから特別にってことで頂きました」


 そう言って、一切れ分のクリスマス限定ケーキが入った箱を見せてくる。

 どうして中身を見ずに限定ケーキだと分かったかというと、俺も同じものを店長から頂いたから。ウチの店でこの時期一番人気のケーキで、割高にもかかわらず口コミでも大評判だ。


 そこで、俺の脳内が「はっ」と現実解に辿り着く。


「もしかして……この限定ケーキが欲しかったから敢えてシフトに入ったのか?」


 白鷺が「ふふっ」と小さく笑った。


「いいでしょう? 普通にお客さんとして買ったら、高校生のポケットマネーだとかなりの痛手ですからね」


 ……あぁ。


 なるほど。現実的だ。めちゃくちゃ現実的。


 俺の中で、勝手に膨らんでいた妄想風船が、ぷしゅーっとしぼむ音がした。


(結局、俺が抱いてた淡い期待は、ただの思い過ごしだったか)


 少しだけ気落ちした。いや、嘘です。めっちゃ落ち込んでます……


 とはいえ、どこか納得している自分もいる。

 バイトでしか関わりのない俺が好意を持たれるなんて夢見過ぎだ。ましてや、彼女は美少女。校内で引く手数多なんだから、猶更可能性は低いだろうに。


(ちょっとしたことで期待して、俺も単純だな……まあ、そんなんだから年齢イコール彼女なし歴なんだろうけど)


 色々と思うところはあるが、取り敢えずモヤモヤを晴らすことはできた。

 理由も分かったし帰ろう、と帰路に就こうとする直前、白鷺がさも当然みたいな顔で言ってきた。


「先輩。せっかくだし、一緒に食べてから帰りませんか?」


「……今から?」


「今からです。クリスマスなんですから」


 クリスマスってそんな便利な言葉じゃない気がするんだが。

 

 俺は「寒いだろ」と言いながらも、結局頷いていた。断る理由がない。いや、ある。多分ある。でも、彼女の力ある言葉に逃げ道を塞がれた気がして、上手く断れなかった。


 白鷺と並んで歩き、たまたま見つけた近くの公園で食べることにした。

 ベンチに二人で座ると、木々の隙間からイルミネーションが見えた。子どもが走り回る昼間の公園とは別物で、夜のベンチは妙に“そういう雰囲気”を感じさせる。


 寒さで手がかじかむ。なのに、白鷺は寒さを感じさせることなく平然と箱を開ける。


「先輩、どうぞ」


「お、おう。さんきゅ」


 俺がフォークを貰い忘れたのに気付いて困っていると、白鷺が個包装から取り出したフォークを差し出してきた。

 俺の分まで貰っていたなんて随分と用意がいい。もしや初めからこうして二人で食べるつもりだった……というのは俺の勝手な妄想だろうか。


 雑念を振り払うように、俺はケーキを一口頬張る。


「……美味いな」


「そうでしょう。ウチの自慢のケーキですから」


「いや、お前は売ってるだけだろ。作ってるのは店長」


「ふふっ、そうでしたね」


 頭の悪い会話に釣られて笑ってしまった。でも、こういうのも何か良いなと思う。

 何気ないやり取りなのに、今日あった出来事の中で一番楽しい時間な気がする。このままずっと続いてくれたらいいのに。


 ……結局、そういうことばかり考えている時点で俺はこいつのことが好きなんだろうなと思う。まぁ、自覚したからといって今すぐどうこうしたい訳ではないけど。


 思い返せば、白鷺と関わる時間はいつも退屈とは無縁だった。

 レジでの小競り合い。休憩室での他愛ない雑談。たまに来る容赦ない指摘。それら全部が、今となっては妙に愛おしい。


「話変わりますけど、先輩ってもうすぐ受験生ですよね。志望校はもう決めてるんですか?」


「いや特には。取り敢えず都内の大学をいくつか受けてみようと思ってる」


「そんな無計画で大丈夫ですか?」


「何とかなるだろ多分。まあ、大学生になったら上京することになるし、今のバイトも辞めてあっちで探さなきゃだけど」


 そこまで言ってから気づく。これ、別れ話みたいじゃないか?

 

 慌てて押し黙るも既に遅く、白鷺は一瞬だけ視線を落として、それから「そうですよね」と小さく言った。


 ベンチの端で、風が鳴る。

 その沈黙が怖くなって、俺は誤魔化すように笑う。


「ま、まあ受かったらの話だけどな!」


「先輩なら大丈夫ですよ。何だかんだ言って、やる時はちゃんとやる人ですし」


「何だかんだは余計だろ……」


 そうツッコむも、彼女の声音がいつもより低く感じて、続きの言葉が出てこない。

 白鷺も何か言い返してくれたらいいのに、急に物静かになってしまったので気まずい。


 余計なことを言ってしまったと自省しながら、無言で残りのケーキに口をつける。


 しかし、黙々と手を動かしていたら時間が経つのもあっという間で、互いに食べ終わってしまった。

 後片付けしてしまえば後は解散するしか選択肢がない。この空気感の中、どう別れを切り出そうかと俺が悩んでいると、白鷺がようやく口を開く、


「そういえば教えてませんでしたよね。先輩が気になってる疑問の答え」


 俺の背筋が勝手に伸びる。


「……限定ケーキが欲しかったからって言ってなかったか?」


「私は“はい”とも“いいえ”とも答えてないですよ?」


 白鷺は、さらっと言う。

 一度首を傾げるが、すぐに思い出す。そうだ。言われてみれば確かに答えていない。俺が勝手に解釈して納得しただけだ。


 白鷺は冷たい空気を一度、息で白くしてから、まっすぐ俺を見た。


「今日、先輩に告白しようと思ったからですよ」


 ――え?


 思考が止まる。


 続けて、白鷺は言った。


「先輩、好きです」


 俺は思わず固まった。


 口が開かない。言葉が出ない。

 俺の脳内で、さっきまでの“現実解”が崩壊して、代わりに“都合の良い妄想”が、現実として立ち上がる。


 面食らって固まる俺を見て、白鷺はぷっと吹き出した。


「まさか、本当に気づいてなかったんですか? わざわざシフト被せた時点で察してるもんだと思ってましたけど」


「いや、薄々そうなんじゃないかって気はしてたけど……都合良い妄想だと思ってたから」


「先輩って普段は察しいいのに、変なところで自信ないですよね」


「うっ……」


 図星だった。ぐうの音も出ないご指摘を受けて、つい肩を竦める。

 そのぎこちない様子を見てか、白鷺は「ふふっ」と小さく笑う。


「まあ、私も人のこと言えないですけどね。こういうイベントの力に頼らなきゃ告白できない小心者なんで」


「……その、いつから俺のことを?」


「んー、割と最初の頃から? 私がこのバイト始めた時、先輩が教育係だったじゃないですか。かっこいいなーって思ってましたよ」


「こそばゆいことを……」


 浮足立つことを平然と言われてしまい、胸の奥が無性に痒い。

 俺の方が一年多く人生経験を積んでいるはずなのに、後輩の言葉一つにドギマギさせられてばかりなのが悔しい。……よし、ここは落ち着いて深呼吸を。


「先輩、いま顔真っ赤ですよ」


「うるさいよ」


 しかし、ニヤニヤと悪戯な笑みを見せる白鷺に邪魔されてしまった。


 ああ、もう。この後輩は。

 全てを見透かしたように手玉に取ってくるし、余裕ある装いでいつも俺を揶揄ってきて面倒この上ない。


(でも、嫌だとは思わない)


 よく見れば、頬がほんのりと赤らんでいて、強がっているだけで緊張を隠せていないのが伝わってくる。

 そんな後輩だからだろう。ムカつくし生意気だけど、それ以上に愛おしく思えるから―――


「……俺も」


 喉が乾いて言葉がつっかえる。

 心臓の音がうるさい。


 それでも、一拍挟み、白い吐息の向こうに言葉を置く。


「俺も、白鷺のこと好きだ、と思う」


 白鷺が目を丸くして、それから、すぐにふっと笑った。


「“と思う”って何ですか。そこは言い切ってくれないと」


「いいだろ別に。意味が伝われば何でも」


「本気度が伝わってきません。受け手が遊びだと感じたら遊びになる世の中なんですよ?」


「そんなパワハラみたいな」


「でもまあ、よく頑張ったと思います。仕方ありません。クリスマスに免じて特別に許してあげます」


 そう言って白鷺は、ほんの少しだけ、俺の肩に寄りかかった。

 こいつは何様なんだと呆れるが、甘えられているのが嬉しくて反撃する気も起きなかった。


 ベンチの木が冷たくて、街の光が眩しくて、隣にはの温もり。


 ああ、これが“クリスマス”か。


 俺は今更、スタート地点に立った気がした。


「来年はシフト入れないでくださいよ? 私も入れないので」


「分かってるって」


 来年も一緒に過ごすつもりなんだなと分かって嬉しくなる。


 可愛い。腹立つ。生意気。困らされてばかり―――それが俺の恋人なんだ。


 手に冷たい感触が忍び込んできて、遅れて彼女と手を繋いでいるのだと気づく。

 応えるように指先を絡めてやれば、ピクリとさせつつも、しっかり密着させてくる。その小さな仕草が、妙に心臓に効いた。


(シフト入れたから回避したつもりだったのに――結局、いちばん“クリスマス”してるじゃねえか)


 取り敢えず、間違ってシフトを入れないよう来年のカレンダーの予定を今の内に埋めておこう、と思う俺であった。

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「クリスマス暇ですか?」とバ先で後輩がニヤニヤと聞いてきたので、「シフト入れたから代われないよ」と言ってやった。「じゃあ私も入ろっと」と言ってきた。 そらどり @soradori

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