Fall─怪異ファントムが渦巻くジパングだけど、ただあなたには笑っていてほしかった─

@XItsX

1-1 影に抱かれて

 ×


落ちる。何も見えない真っ暗闇の中を。

身体を支えるモノは何もなく。ただ、落ちるだけ。

暗闇の中、落ちる身体は通り過ぎる風を感じている。


ふと気付くと、暗闇に一筋、二筋と光がポツポツと浮かんでいく。

光には懐かしさを感じる光景、そして、何故か悲しみが胸の中に溶け出していく。

つい手を伸ばしてみても、光には届かない。

こんなにも近く感じるのに、どれだけ伸ばしてみても届かない事を自分は知っている。

まるでお日様みたいだ。


――こうであって欲しかった未来、理想――


光の数は徐々に増える速度が増していく。

中には「そんなのあったけ?」と思う記憶も混じるが情報の濁流に流されて消えていく。


途端、声がした。

「■■■■■■■!!!」

声にはノイズ音が混じっている。が、理解できる。出来てしまった。


ノイズが聞こえると一つの光は霞んでは消えていった。

もう一つの光は望んだ未来から形を変え、見るに堪えない光景を映し出す。

そのノイズは無数に光るそれらを台無しにしながら、響き渡る。

ついには有りもしない声が聞こえ始めた。

「あぁ、終わったかもしれない」そんな予感が胸に犇めいていくひしめいていく


ノイズは自分の気持ちなど知るかと、ただ木霊し反響している。


「あ……、あっ…………!!」

思わず声を出す。


「……」

考える。自分はどうして、なんでここにいるのかを。


――「にぃにぃ、お日様の下はポカポカして気持ちいいよ。ね?ほら。」――

浮かんだのあの日の記憶。


少女は日光が照り返した白色の髪を棚引かせている。

太陽を思い起こさせる暖かなオレンジ色の瞳は自分の事を真っ直ぐと見据え、

朗らかほがらかに微笑む少女が自分に手を差し伸ばしてくれた。

そう、日陰で憂鬱な顔を浮かべる自分なんかに。


ただ、それだけだった。

でも、それだけで良かったんだ。


陽白やしろ……」

声が漏れる。


「くっそ、何しているんだ自分は」

もう一回……!もう一回だ!!!

強くこう在りたいとを思い起こす。

あの日の光景を思い浮かべながら。


すると、ノイズしかなかった世界に甘やかな声が聞こえた。

「それがあなたのなのですね。マスター。」


「え?」と辺りを見渡しても、声の主は見つからない。

すると、何もないところからスッと影が伸び、視界を覆い始める。


「……駄目ですよ、マスター。お楽しみはまた今度。」

「そう、今は少し目を閉じて。フフ……良い子ですね。」


影が伸びた瞬間、肝を冷やした。

しかしながら、伸びた影はまるで何かから守るように優しく目を覆った。

きっとそれは悍ましいおぞましい光景に変わってしまった光。その事に気付いて少し安心した。きっと大丈夫。


すると、その声は耳元まで近づき、囁くささやく


「マスター、ヒカゲの声を聞いて。」

甘やかな声が胸の中に染みいり、暖かさに変わる。


続けて、

「フフ……ヒカゲを感じて下さいね。マスター。」

声は若干の恥ずかしさをはらんでおり、胸のこそばゆさが際立つ事を感じる。

気付くと、目を覆った影が今体中を覆い、抱かれた。


影は冷たさを持っていたが温もりがあり、何より柔らかかった。

顔を覆う影は細指を思わせ、優しく目を覆う。


「んん……!!?」

戸惑いの声が漏れる。


「そうそのまま。良い感じですよ、マスター。」


さっきまでのノイズは音を潜めて、静寂が広がっていた。

疲れなのか、暖かさに安心したのか眠気に誘われるいざなわれる


「ヒカゲの中でごゆっくり……。マスター。」


暗闇の中で影に抱かれいだかれ、そして眠りに落ちた。


 ×


暗闇の中、地べたに仰向けに寝そべる少年がいた。


「ん…。んん…………。」

少年が起きたことに気付くと、少年を包んでいた影が形を成し始める。


「フフフ……。」

クスクスと笑う声。


少女の声がする方に少年が顔を向ける。

仰向けで寝そべる少年にもたれかかるように抱きつく少女。


「わわ、すみません!!!!」

と少年は慌てて少女を押し返した。


すると、少女は眉を顰めるひそめる

「もう、いけずなんですから……。」

肩を窄めすぼめ、か細い人差し指を口元に当てながらそうぼやく。


良い事を思いついたと言わんばかりに笑みを強め、

少女は地面に手を置き、四つん這いの姿勢で少年にまたがる。


「友好の印です、マスター。気に入ってくれると嬉しいのですが……」

少女はそんな事を言いながら、指を折り曲げた手を添えながらこう問いかける。

「マスター。こういうのお好きですよね?」

少女は両手でバランスを取りつつも前屈みでそれをお披露目する。

「にゃんにゃん♪……こう言うんでしたっけ?」

少し頬を染めているかの様に見える。


少年は「いやいやいや……!!!」と言いながら、顔を手で覆ってみるものの、指の隙間から少女をマジマジと見つめる。

ボブカットの白髪で男性を引き込むような妖しげなピンク色の眼。

背はおよそ150cm代半ば。雰囲気はどこか落ち着きはらっている。


つかのま、ハッと気付いた少年は「あっ……!!いや、あの!すみません!!!!!」と謝る。

つい見取れていることに気付いた少年。だが、気付くには遅く、少女はこちらを見返していた。


「あらあら……。フフフ……。お気に召してくれたのですね、良かった……。」


「怒ってないの……?」と安心している少年を横目に少女は

「それにしても、変態でエッチなマスターさんなんですね。はしたない。」


ギクッという音が聞こえてきそうな顔をする少年。

「仕様がないマスター、仕方のないマスター。」

歌うように続ける少女。

「えぇ、それでも愛しましょう。それがワタシ、マスターの影、ヒカゲなのですから。」


「それはそれとして」と前置きをおいて、少女ことヒカゲは言う。


「用法用量は計画的に、マスター。」

「ヒカゲはマスターの幻影。影に飲まれぬようにご注意を。」

ヒカゲは人差し指を立てながら、「ね?」と首を傾げる。


 ×

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