第14話
「ホフホフ」
「ハフハフ」
ひたすらジャガイモを貪るように食らう。皿が無ければ箸もフォークも無いため、細い木の枝を突き刺して食べている。
焚火にジャガイモといえば、ジャガイモをアルミホイルに包んで焚火に放り込むワイルドな調理方法が一般的だろうか。
我々はそんな気の利いた物は持ち合わせていないので、土を落としたジャガイモをそのまま焚火に投入する真のワイルド料理をするしかない。
当然そんな事をすれば黒焦げになってしまうのだが、その焦げた部分を削っていけば中は良い感じにホクホクになっているところもある。
加食部分を大きく損ねてしまう調理方法なので勿体ないとは思うのだが、他にやりようが無いから仕方ないし、何よりジャガイモは大量に収穫しておりこれからもどんどん増産する予定だ。細かいことなど気にする必要は無い。
「はぁ~……食った食った」
ちょくちょく邪魔しに来る魔物を交代で対処しながら、ジャガイモを食べ続けて二時間ほど経っただろうか。
全ジャガイモの半分ほど食べたところで程良い満腹感を得られたので食事を終了とした。
途中で試しに焼いたジャガイモがインベントリ入らないものかと試してみると『焦げたジャガイモ』という名称で収納された。たしかこれはゲーム内でジャガイモを使った料理をして失敗すると出てくるアイテムだ。
こんなに美味しいのに失敗作扱いとは少し納得がいかないものの、インベントリに収納できるなら有難いことだった。
まだ確証は無いが、インベントリに入れておけば食べ物は腐らない気がしている。ゲーム内にそんなシステムは存在しないからだ。
「さて、これからどうするか」
残りのジャガイモを焼き尽くし、ジャガイモパーティーはお開きと相成った。
ジャガイモのみという極めて偏った内容ではあったが、喫緊の課題であった空腹問題を解決することはできた。
となると次の予定は森に入って薬草集め、ということになっているのだが、ここで新たな選択肢が発生している。
『なんかこの辺の敵が強いしジャガイモを消費しすぎたし、ちょっとレベル上げがてら前のエリアに戻ってジャガイモを乱獲しよう』というものだ。
個人的には他にも、どこか山の方に行って綺麗な湧き水をたらふく飲みたいという気持ちもある。やはり村の下流は気分的に良くない。
俺としてはどれでも構わないので、ここはひとつ佐藤さんの意見も聞いてみたいところなのだが……。
「……佐藤さん?」
「……はい」
佐藤さんは腹を抱えて仰向けに倒れていた。原因は言うまでもない。
「腹も膨れたことだし、これからどうするか決めたいんだけど」
「……わたしは、休憩を希望します」
さすが佐藤さんだ。ここでさらに新たな選択肢を提示してくるとは。その智謀、並々ならぬものがある……!
「一時間ぐらいでいいか?」
「……はい」
佐藤さんは極力動かないよう、努めて安静を保ち続けている。きっと大きく動くと危ないのだろう。会話も腹を動かさず、肺と喉だけで声を絞り出しているようだ。
食いすぎてぶっ倒れた佐藤さんが復活するまで、ゆっくり休憩を取ることとなった。
「いやー、なんというか。本当に申し訳無いというか、ごめんなさいというか」
「いやいや。今までちょっと生き急ぎすぎてたからな。ゆっくりするちょうど良い機会だった」
「す、鈴木くんっ……!」
「それにほら、そんな感じが佐藤さんらしくて良いんじゃないか」
「……それはちょっと、いや、何でもないです」
しばらく待って起き上がってきた佐藤さんは恐縮し切っているが、本当に気にすることは無いのだ。
俺はやり込み動画やRTA動画などを見すぎた弊害か、少々急ぎすぎていたように思う。
常に最善の行動を取って最速で進まなくてはならない、なんて決まりがあるわけでもない。
ただ俺は一人で寄って来る魔物と戦って、一人で大根を収穫しに行って、また一人で魔物と戦っていたので、全くゆっくりできていないのだが。おかげでもうだいこん怪人の相手をするのも慣れてしまった。
「それで、実際どれがいいと思う?」
「えっと。ジャガイモの種かな」
「うーむ、やっぱそうか」
現在でもジャガイモの種はある程度ストックがあるが、その分を全て収穫したとしても、ロスの多い真のワイルド丸焼きだと精々三日か四日分にしかならないだろう。今森へ行ってもどうせすぐ戻ることになるのだから、先に大量のジャガイモをストックしておきたいということだ。
そんなわけでまた橋を渡って前のエリアに戻り、見かけた魔物を片っ端から倒しつつ、何だかんだで昨日お世話になった湧き水の辺りに帰ってくることとなった。
この場所には辛い記憶しか無いはずなのだが、たった一日居ただけで妙に愛着を感じてしまっている。
「あぁ~……疲れたー……」
現在は日も沈みかけており、視界が悪くなってきたので狩りを中断。昨日の畑があった辺りで腰を落ち着けている。いや、佐藤さんはもう寝転がってしまった。
「種は何個になった?」
「えーと……十七個」
「で俺が二十個と。全部植えたら凄いことになるな」
「じゃあ次に来たときはまず水場の近くで畑を耕して、魔物を倒して収穫して、焚火でジャガイモ全部焼いて、それから森に行って」
「あー、ストップストップ」
とんでもないスケジュールが組まれようとしているのを慌てて阻止する。俺は生き急ぐのをやめたんだ。
「ジャガイモを焼くところまででいいんじゃないか? 朝まではこっちでジャガイモ狩りするんだし」
「あっ、そっか。今日と同じ感じになるんだもんね。それで畑仕事がいっぱいだから……うん。焼くまでだったかも」
「そうそう。のんびり行こうぜのんびり。慌てなくても死ななくなったんだし」
そう、これまでは渇きと空腹に追い立てられ続けてきたが、ようやくそれらから解放され自由になったのだ。それならば自由を満喫しないともったいない。
「ねえねえ鈴木くん」
「ん?」
仰向けに転がっていた佐藤さんは、ごろんと寝返りを打ってこちらに顔を向けてきた。神妙な表情を浮かべているが、とにかく体勢がだらしないので今一つ真剣味が無い。
「わたしたちってさ、今日は死なないんだよね」
「まあ……そうだろうな。水も食糧もあるし敵も弱いし」
「じゃあさ、どうやってあっちで起きるんだろ」
「おお、たしかに。というか日本は今何時なんだ? こっちが十八時だとして……えーと、朝の六時か」
今回日本で寝たのが二十三時なので、こっちに来たのは二十一時。つまり現時点で二十一時間活動していることになる。しかし、眠気は全く感じていない。そういう仕様なのだろうか。
「普通に考えたら、日本で起きたらこっちは消えるのかな」
「だろうな。えーと、目覚ましは七時二十分にセットしてるから……こっちでは二十二時か」
「あっ、わたし七時」
「となると二十一時だな。……俺より一時間も早く戻るのか」
「ありゃ。えっと、お先でーす?」
「んで、それぐらいの時間になっても戻れなかったら自殺しないとだな」
「……」
そうしてダラダラと取り留めのない話やエタファン3の話などもしつつ待つことしばらく。
急に佐藤さんの様子がおかしくなった。
「それでね、今はサウインの姫が仲間になって……あれ? ん、なんか急に、眠気が――」
「…………なるほど」
楽しそうにゲームのエタファン3の話をしていた佐藤さんは、急激に眠そうになり、その次の瞬間消え去った。あっという間の出来事だった。
これは予想通り、日本で起きたから消えたということだろう。その前兆がこちらで眠たくなるというもの。ただあまりに急すぎて前兆などあってもなくても同じようなものだが。
こっちでどんな目に遭っても気絶しない理由もわかった。この世界で俺と佐藤さんが気絶したら消えて、日本で目が覚めるんだろう。
そうならないために、どれだけ起きていても眠気を感じず、どんなに酷い怪我をしても気を失わないようになっている。
「で、俺は今から一時間後、急に眠たくなって消えると。…………これは暇だ」
さっきまでは佐藤さんがいたからダラダラしていられたが、一人になってしまうとさすがに暇を持て余す。暇潰しにレベル上げでもしておこう。そして次から目覚ましは七時にセットしておこう。
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