絶望したおじさんがバ美肉転生したらアイドルを目指していた件について

@XItsX

1-1 おじさん、美少女になる!?

1-1

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 「フィクション」。それは、ある人にとっては虚構であり、ある人にとって真実である。

 世の中には数多のフィクションがあり、それは多様で珍妙奇天烈、摩訶不思議。

 虚構か、真実か。それは、それを信じるモノのみにとって真実なのかもしれない。


 そして、ここにも1人、あるフィクションを打ち出そうとしているモノが居るそうで……


 ×

 ここはバーチャルな一室。椅子に座る美少女と膝上で丸まるネコ。

「よし、これで完了っと。」

 クリック音とともに美少女が背伸びをすると、それに驚いたネコが「ミー」と鳴きながら部屋から出て行くのであった。


 それを見つめる一人の女の子は部屋を出て行くネコを見送りながら「あー……ごめんね。ミーちゃん。」と呟くのであった。


 今、部屋を出て行ったネコこそ、話題沸騰中の生成AI「Nyanco」。巷では「ミー」と鳴くからミーちゃんと呼ばれている。


 美少女がホログラム画面に目を戻すと、画面には「『本日のあらまし』が更新されました」と表示されている。

「内容はこれで良いんですか?本当に。」


 空中に四角く黒い画面が浮かんでいる。その中には簡易的な顔文字が描かれ、表情を覗わせる。

 先ほどの生成AI「Nyanco」の意思疎通をする端末、ター坊である。


 「良いの。決めたんだ。美少女になって、みんなに可愛いって思ってもらうの。だからね、これはおれ……新増のケジメだから。」

 そう言って手を握りしめる新増。


 ター坊は黒い画面を左右に振り振りとしながら、一言を付け加えるのであった。

「承知しました。それにしても今、俺って言いましたよね。」


 そうを言われると「ハウ……!」と声を出す新増は「うっさいなぁ!ハァ、早く慣れないとなぁ……」と言いながら、腕をブンブンと振った後、項垂れるのであった。


 それにしても……とター君は椅子の上で項垂れるうなだれる新増を横目に淡々と観測結果を列挙する。「よくまぁ、ここまでやりましたね。」

「目はオレンジ色」

「髪はミディアムでカールのある毛質。髪色は薄い茶色ですかね。」

「背は150cm台前半ながらバストは90cm前半……」


 そんなター坊の言葉を聞いてふと思った。己の中に湧き上がる、断固とした熱い想いを今、示さなければならないと新増は奮起するのであった。


「ちがーう!いや、客観的な事実のなのかもしれないけれども、そうじゃないの!!」

「大事な事はみんながドキドキワクワクとさせるような活発さ、そしてみんなをググッと包み込んでしまうような包容力!!」

 手をパーッと広げて力説しはじめる新増。

 徐々に演説には熱がこもり、キャラの一つ一つの魅力を熱弁していく新増。


「見てよこの目を!まるでお日様燦々とみているリスナーさんの心をポカポカと照らすような目を!!そして薄めの暖色でやさしい印象のある女の子を表現しようとしたの!!」

 演説の最中、右手が左から右へと勢いよく空を切り、「これぞ新増!!これぞ美少女!!」と後ろに横断幕でも掲げるような勢いだ。


「そして、これ!みてよ!!モノクル!これで知的さ倍増だね!!」


 顔をガバッと上に向けて、両手で拳を握り込み、「そう、これが新増ミロなのさ!」と、目をキラキラさせながら語る新増。


 すると、後ろからやれやれと言わんばかりにター坊が口を挟む。

「お話中に申し訳ないんですが、自分で自分を褒めちぎってて恥ずかしくないんですか?」


 刹那、時が止まった。気がした。


「うるさぁああああああい!!!良いじゃんか!!新増は可愛いんだぞ……!!新増は……!!」

 目を潤め、俯きながら床にへのへのもへじを繰り返し描きながら、落ち込む新増。


 へのへのもへじを書いていると通知音がピロンとなる。

 なんだろうと顔を上げるとそこには、「初配信」という輝かしい文字がキラキラと輝いているようだった。

 その文字を見た途端、ガバッと立ち上がり、手で顔を覆ったかと思えば、新増はこう続けた。


「フフフ……!こんな所で塞ぎ込んでいられない。明日は初々しい初配信!!」

「初配信……!!あぁ……初配信!!それは全ての苦労が報われる日……」

 顔を天に仰ぎながら、握りこぶしで顔をグシグシとこすりながら「うぅ。ようやくだ。ようやくここまでこれた……!!」とうめき声をあげながら泣く新増。


 そんな新増をみて、黒い画面の目が横一字がポツポツと二つ並んだ後に「;(セミコロン)」がならんでいるター坊。

「こんなんで大丈夫ですかね……。」


 そんな言葉を聞いて、あははははははと声を出して笑いながら、新増は自信げな顔立ちでこう言い放つのであった。

「告知だっていっぱいしたし、きっと、華々しい幕開けに!!」


×


【初配信当日】


「ま…くあ……けに…………!!」

 所々、しどろもどろと声がをつっかえさせながらも声を必死に紡ぐ新増。


「誰も居ませんね……。」

 ター坊のその電子音は部屋に虚しく響くのであった。


 そんな声を聞いて新増は、ムキーと可愛らしく怒りながらこう続けるのだ。

「うるさいなぁ!もぉ、ターミナルはターミナルらしくしててよね!!」

 無機質な黒い画面に対して怒濤の剣幕で迫る新増。


 「やれやれ」とばかりに黒い画面を左右に振らしながらター坊は告げる。

「承りました。ターミナルらしく「あなたの配信を見ている人は0人です。」と通知します。」

 無情にも無機質な電子音はありのままの現状を正確無比になんのオブラートに包まずター坊の口から告げられるのであった。


「ター坊のばかああああああああああああああああああああ」

 新増は叫びながらター君を激しく揺する。


「理不尽な。」

 眉毛があったら一ミリも動かないであろう真顔で、ター坊はそう呟く。


「誰のせいよ、まったくもう。」と、頬を膨らませ、憤慨する新増。


 すると、後ろから生成AI「Nyanco」の本体であるミーちゃんが現れる。

「はぁ、こんなにミーちゃんはかわいいのに・・なんで、ター坊はそうなの?」


「私はもともとミーちゃんの代理です。つまり、ヒューマンインターフェースです。分かり易く言うとミーちゃんとのあなたを繋ぐ存在です。性格は作者の趣味です。」

 今では多種多様なAIが広まる中で、声を持たないAIが多く存在しており、その時に代理のヒューマンインターフェースとして選ばれているのがこのター坊なのだ。


「作者!なんてモノを作ってやがる!!」

 右手をギリギリと握りしめて、手が薄らと赤く紅潮させる新増。


「ミーちゃんは可愛いですよね?それを繋ぐモノ、つまり私も可愛かったら、胸焼けしませんか?そんな作者の老婆心ですよ。」


「要らない!そんな老婆心、要らないよ!!」

 一頻りのツッコミを終え、肩で息をする新増。


「あぁ、勿体ないですね。リスナーがいれば。」


「そうそうリスナーがいれば……」

 新増はうんうんと首を縦に振る。


「一人遊びがお上手ですねって褒められたでしょうに。」


「もうええわ!!」

 これ以上のネタは要らんとばかり、ター坊のおしゃべり機能をOFFにする。


「……このままじゃ終われない。だって、新増の初配信はまだ終わってないんだから!」


 そう言って自身の配信ルームを出る新増であった。


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