遺産で愛を買った
ありせ
第1話
暫く揺蕩っていた
眠くなると思って、御経から逸らした先には甘さがあった。
白檀のそれである
まだまだ終わりそうにないそれに、幾分酔っても問題なさそうだ。
父の葬式が今日だった
淋しくはない
幼稚園に上がる頃、母が亡くなった
父は母を愛していたと思う、今日まで他の恋人は作らなかった
お陰様でと言うのだが、遺産は全て私が受け継ぐ事になった
参列した親戚は私に僻む
創業者であった父はそれなりに人脈があったのだろう
棺の手前、最前列は居心地の悪を犇々と感じる
大学1年になる今年の杪冬であったから、都合が良かった
最も、父まで早くに亡くなるとは思ってなかった。
母が亡くなってからの父は、父親として私にあるべき姿を貫いていた気がする
それでも、私より辛かったと思う
このような人生であれば、
昔から薄情な私は運が良いと言える
私がここで吸う空気には、侘しさもあった
催しの対象についてでなく、私自身にだった
そんなふうに耽ていると、成り行けば御斎の席に座っている
よく覚えていない面々の中で、私も箸を取った
『孤児…って事になるのかな』
右隣、恐らく企業の関係者
ただ呆けている私も、俯瞰すれば父を亡くして孤児になった可哀想な子なのだ。
情の言葉をいくらか貰った
『今年から大学生だっけ』
「…そうです」
『…』
『色々、頑張ってね』
面白いと思ってしまう
掛ける言葉が見つからないのだろう
バツが悪い空気だと、食事がどんどん進む
『確か頭良い大学よね』
「…」
こういうのは返しづらい
努力はしたが、言うものではない
『平井さんね、紬さんの事よく話してたから』
『頑張ってる紬さんのこと、きっと天国から応援してる』
「そうだと良いです」
意外な事を聞いた
無愛想だったから、滅多に帰らない父が家にいた時も会話は形式的だった
父は私に、そういう生き方を選ばせたのだと思った
見えないところで、親愛を見せるような父だとは知らなかった
余計、分からない
どうやって愛を持って、どうやって発散させるのか
通っていた中高一貫の学友達も、それまでの関係だった
進学するとリセットさせるのが私の交友関係だ
友情すら、良く知らないのだ
つもりがなかったら、知ろうとすれば近くにあった物に気づいて、けれど手遅れなそれに渇望してしまった
仕方ないと思う
ずっと昔から親愛だって友情だって愛情だって、ろくに与えてもらえなかった
帰っても誰もいない家から登校していたのだ
小学の時からずっとそうだ
排他的に育つに決まっている
だからこそ羨望するのだ
今のは惜しい、掠れた
ずっと欲しかった
その先に、有り余る金の使い道を、思いついた
「私がお金持ちだったら、付き合える?」
1人目は、どこにでもいるキャバ嬢に。
遺産で愛を買った ありせ @al1se00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。遺産で愛を買ったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます