解毒剤

かすみ恋芥

第1話 毒も薬も紙一重

弱き者は、毒を持つ。それが世界の摂理だと知った。そして毒を持つものは、だいたい奇麗な色をしている。美しいものは、弱くて、弱いものは毒を持つ。とすると、私は弱者です。私の武器は、もう言わなくてもお察しいただけるでしょう。

そう、毒。

弱者が授かりし、最後の、とっておきの攻撃手段。

ただ、私が扱うのは普通の毒ではありません。

「毒を吐く」これを言葉の通りに行っている。ここでいう「毒」は、言葉の毒。


———そろそろ、ゲシュタルト崩壊してきたのではないでしょうか。


声に乗せて、その毒で戦う。

毒も薬も紙一重。

だから、私がやっているのは「毒殺」ではなく「治療」だと、自負しています。


—————————


名乗るほどではありませんが、山崎いずきと申します。

私はあの日あの時、定義されました。

生まれて初めて、ちゃんとした存在になれました。

春だったと思います。それも相当晴れていました。

現在、私は16歳ですので、10年はお世話になっているでしょうか。そんな本屋さんがあります。

今の店長は、適当なバイトが成り上がったらしいです。そして私はかなり、その店長と仲がいいです。店長は藍川といいます。先入観だけで、男性を想像していますか?―そうです。男性です。

先ほど10年とか話しましたが、藍川さんはどうも、見た目の変化がないのです。…いえ、ケアを頑張っているとかどうとかの話ではなく、微塵も、変化がないのです。少なくとも私の記憶にある10年間はずっと、20代前半くらいのチャラチャラとしたお兄さんなのです。

―それはさておき、その本屋のある本棚(自己啓発本がありました。)の隅に、(おそらく)世にも珍しい、透明のインクを発見したのです。水かな、と思いました。水だとしたら、目的が分からない。(藍川)店長に頼んで、合法的な万引きである、お持ち帰りをさせていただきました。みなさんは真似しないでください(突然の注意喚起)。時間が経つごとに、なんだか貴重なインクに思われたので、自室で、誰かにもらった高そうな万年筆のカートリッジに入れて、独り占めしました。せっかくなので、スケッチブックに文字を書いてやりました。透明なので、筆跡が見えず難し思想だなと思い、小学生で習う字を書いていきました。「赤」、「青」、「空」、「森」、そして「愛」。我ながらセンスが皆無です。自分は何を書いているんだろうと思いながら外方を向いていたのですが、机に向き直ると、「赤」「青」はそれぞれその色に、「空」は水色、「森」は深い緑色、そして「愛」は、黒に近いような深い赫色になっていました。

インクは「意味」を探していたのだと思いました。元から自分に色があり、そこに合致する言葉があるわけではなく、書き手が書いた言葉のニュアンスで姿を変えられるらしいです(抽象的な言葉でも変化し、また字体によって同じ字でも彩度や明度が変化しました)。カメレオンみたいだなと思ったので、パスカル、と名付けました。これ以降、この名前で呼んではいません。


――その次の記憶は、ケガを負って病院にいたことです。そのまえ私は、夢遊病のように歩き出したそうです。それとほぼ同じ時刻に、現実にはあり得ない可愛らしい衣装の少女が、突如として街なかに現れた、巨大な影を浄化していたそうです。因果関係が明らかすぎだと、文句を言いたくなりました。


こうして私は、魔法少女になったようです。

社会から、役職を与えられました。


病室のベッドで横になった状態でサイドテーブルに向くと、量の減ったインクがちょこんと置いてありました。同時に、自分の喉が焦げたように痛いことに気が付きました。口から息をするにも、空気が棘ほどの痛みで刺してきました。声なんて、もっての外です。おそらく、呪文を唱えたようです。

あとから聞いた話によると、呪文ではなく、人を正すような言葉だったらしいです。ふんわりした記憶を呼び起こすと、私は、誰かの「怒り」と戦っていたそうです。心なしか、ぼんやりと、涙腺が痛むのを感じました。


そこから数日経ってもよくある可愛い生き物が来ませんでした。

どうやら私は、個人勢の魔法少女のようです。


―――――――――――――――


静かな街の片隅に、

孤独の魔法少女・IZ(イズ)

見参。

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