第53話 チェンソーマンのコスプレして殺しに行く!

 207号室の惨劇を終え、タカシは返り血とビールの泡、そして男の肉片にまみれたままアパートを後にした。しかし、彼の狂気は留まるところを知らない。

​「……これだ。これこそが、僕の新しい姿だ」

 ​タカシは、切り裂かれたドアの木片や、男の残骸、そしてどこからか拾ってきた赤い布切れを使って、自分自身を装飾し始めた。頭にはチェンソーの刃を模した角、顔には血で描いたギザギザの笑顔。 背中には、まるで悪魔の羽のような装甲。

​ 彼は、完全にチェンソーマンのコスプレを完成させていた。

​「……さぁ、街を『掃除』しに行こうか。悪魔も人間も、みんな等しく……いただきましたぁ~~」

​ タカシはエンジンを唸らせたチェンソーを肩に担ぎ、夜の街を闊歩し始めた。その姿はあまりにも異様で、周囲のゾンビや泥老人さえも道を開けるほどだ。

​ しかし、彼の前に立ち塞がったのは、この世の秩序を守る存在だった。

 パトカーのサイレンが鳴り響き、二人の警官が警戒しながらタカシに近づいてくる。

​「そこのコスプレの方! 何のつもりだ! その危険物、すぐに捨てなさい!」

​ 警官の一人が、威嚇するように警棒を構えた。

 タカシはチェンソーを一度止め、首を傾げた。ねっとりとした一徳スマイルが、血と泥で汚れた顔に浮かぶ。

​「……おや、お仕事中ですか。夜回りご苦労様です」

​ 警官がさらに一歩踏み込んできたその時。

 タカシの足元に、なぜか一粒の**「メロンパンのクズ」**が転がっていた。

​「あッ」

​ タカシの右足が、完璧にそのメロンパンのクズを踏み抜いた。

 長年のコケの経験が、こんな場所で発揮されるとは。

​「ズザァァァァァッ!!」

​ タカシの体は、チェンソーを構えたまま、まるでブレイクダンスのスピンのように、警官の足元を高速で滑り抜けた。

​「職務質問の回避……いただきましたぁッ!!」

​ 警官が呆然と立ち尽くす中、タカシはそのままの勢いで、街角に設置された**「交通安全」の横断幕**へと、頭から突っ込んだ。

​「バリバリバリバリィィィッ!!」

​ チェンソーの刃が横断幕を引き裂き、タカシの頭からは、なぜか**「メロンの種」**がパラパラと降り注いだ。まるで、彼の体が本当にメロンでできているかのように。

​「……安全運転、心がけます……」

​ タカシは横断幕に絡まったチェンソーを抜き、再びエンジンを唸らせた。

 警官たちは、チェンソーマンのコスプレをした男が、メロンの種を撒き散らしながら消えていくという、あまりにも超現実的な光景に、ただ立ち尽くすしかなかった。

​「……あれは一体、何だったんだ……?」

 警官の一人が呟く。

 もう一人の警官は、ポケットから取り出したメロンパンの残りを、静かにゴミ箱に捨てた。

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