第47話 蹴り殺す

 洞窟での凄惨な光景を経て、タカシの精神はついに臨界点を超え、あちら側の世界へと完全に足を踏み入れた。派遣切りの男を介して繋がったのは、伊豆の廃墟を拠点にする半グレ犯罪グループだった。

​「お前、いい目をしてるな。その銃、飾りじゃねえんだろ?」

 リーダーの男にそう言われ、タカシは泥と返り血に汚れた顔で、岸部一徳風の不気味な微笑みを浮かべた。

​ 廃工場の奥。そこには、パイプ椅子に縛り付けられた蓮見社長がいた。タカシをいじめていた佐伯の本当の父親であり、多くの労働者を使い捨ててきた男だ。

​「……助けてくれ、金なら出す! いくらでも出すから!」

 ​命乞いをする社長の声を、タカシはねっとりとした耳鳴りのように聞き流した。彼はゆっくりと、自分の足元を見つめる。そこには、これまでの旅で蓄積されたあらゆる不運と屈辱が染み付いた、ボロボロの靴があった。

​「……社長さん。最後に、いいもの差し上げますよ」

​ タカシはスッと首を傾け、例のポーズを構えた。

​「地獄の沙汰も、いただきましたぁ~~ッ!!」

​ タカシの右足が、これまでの「コケ」で培われた異常なまでの脚力と、加重移動のセンスを全開にして放たれた。

​ ドォォォォン!!

​ 渾身の蹴りが社長の脇腹にめり込む。あばら骨が折れる鈍い音が工場内に響いた。タカシは止まらなかった。何度も、何度も、地面を滑るような独特のステップ(失禁やずんだ餅で習得したあのスライディングの応用だ)を踏みながら、社長を蹴り上げ、踏みにじった。

​「これはメロンの分! これは家康の首の分! これは志茂田景樹の分だぁぁぁ!」

​ もはや叫び声は岸部一徳ですらなくなっていた。

 やがて、蓮見社長はピクリとも動かなくなった。

 静まり返る工場。犯罪グループの面々さえも、少年が放つ異様な狂気に気圧され、言葉を失っている。

​ タカシは肩で息をしながら、死体の横に転がっていた高級なメロンの箱を拾い上げた。中には現金が詰まっている。彼はそれを一瞥し、リーダーの男に差し出した。

​「これ、会費です。いただきましたぁ……」

​ その時、工場の外で激しいサイレンの音が鳴り響いた。

 タカシは機関銃を手に取り、窓の外に広がる、かつて憧れた青い空を眺める。彼の頬には、返り血が涙のように伝っていたが、その表情は驚くほど晴れやかだった。

​「……さぁ、次は学校だ。佐伯くんが待ってる」

​ タカシは犯罪グループと共に、最後の戦場へと向かう車に乗り込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る