第8話 聖夜のスコアメーカー

 スクランブル交差点の大型ビジョンが、華やかなクリスマスソングと共に「あと10分」を告げる。その喧騒の渦中に、新たな「プレイヤー」が立っていた。

​ 男の名は加藤。

 半年前、全財産を注ぎ込んだ高級婚活パーティーで、サクラの女と運営会社に300万円を騙し取られた男だ。消費者金融からの督促電話と、独りきりのワンルーム。彼にとって、幸せそうに肩を寄せ合うカップルは、自分の人生を蝕む「バグ」にしか見えなかった。

​「……あいつらさえいなければ、俺の人生は狂わなかった」

​ 加藤のコートのポケットには、ダークウェブの主催者から送られてきた特殊な**「液体窒素スプレー」と、即席の「ガソリン瓶」**が隠されている。

​ 加藤がスマホの画面をタップする。

 プレイヤー名:『孤独な裁定者』 — エントリー完了。

​ 狂乱のスクランブル

​ 午後8時。信号が青に変わると同時に、数千人の人間が交差点へと流れ出す。

​「今だ」

​ 加藤が動いた。彼は最も幸せそうに見える、ブランドバッグを抱えたカップルの背後に詰め寄ると、容赦なく液体窒素を吹き付けた。

「えっ、何これ!? 冷たっ……」

 悲鳴が上がる間もなく、男の背中が白く凍りつく。加藤は間髪入れず、手に持った鉄パイプでその背中を叩き割った。

​『孤独な裁定者:100pt獲得(初撃ボーナス)』

​ スマホの画面上でスコアが跳ね上がる。それを見た加藤の顔に、これまで一度も浮かべたことのない恍惚とした笑みが張り付いた。

​「はは……ハハハ! 楽しい、楽しいぞ!」

​ 加藤の暴走は止まらない。パニックに陥り逃げ惑う群衆。しかし、その逃げ道には、すでに他のプレイヤーたちが網を張っていた。

​「鎌の男」の後継者たちが、暗がりから三日月刀を振るい。

「銃を持つ派遣社員」の亡霊たちが、ビルの中からスナイパーライフルを構える。

 捜査官の絶望

​「やめろ……もうやめてくれ!」

​ 佐藤刑事が人混みをかき分け、加藤に向かって叫ぶ。だが、加藤の耳には届かない。

 加藤が次の獲物――怯えて震える若い女性――にガソリン瓶を振り上げたその時、佐藤は反射的に拳銃を抜いた。

 ​――銃声。

​ 加藤の胸に風穴が開く。だが、彼は倒れながらも、狂ったようにスマホを見つめていた。

​「……1位……俺が、1位だ……」

 ​加藤の指が、画面上の『全プレイヤー共通:最終自爆スイッチ』に触れた。

 主催者が用意した最後のご褒美。それは、トッププレイヤーに与えられる**「最高の演出権」**だった。

​「メリー、クリスマス……」

​ 加藤がスイッチを押し込んだ瞬間、渋谷駅前地下に埋設されたガス管が、これまでの「事件」で仕掛けられていた起爆装置と連動し、一斉に臨界点を超えた。

​ スクランブル交差点が、底から光り輝く。

 愛を語らう声も、復讐の叫びも、スコアを競う狂気も。

 すべては、クリスマスの夜空に打ち上げられた、巨大な火柱の中に溶けていった。

​ 翌朝のニュース速報。

「渋谷で大規模なテロ事件が発生。死傷者数は過去最大規模に――」

​ しかし、そのニュースを配信しているサーバーの裏側では、新しいスレッドが立ち上がっていた。

​『SHIBUYA CUPLE HUNT — 第14回 開催決定。次回の舞台は……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る