【短編】実家で母と見る紅白歌合戦
加藤よしき
母と見る紅白
今年の大みそかは、母と2人で紅白歌合戦を見た。つまりは悪口大会である。
普段の母は、こういった悪口を積極的に言う人ではない。前に聞いたのだが、結婚するとき、父に言われたそうだ。「家の中で、人の悪口だけは言わんでくれ」母は、そういうお願いをする父の人間性を褒めていた。「それで、『ああ、この人を選んでよかった』と思ったんよね」小学生の頃だったか、そんな話を聞いた。
そんな母が、テレビを前に忌憚なき意見を飛ばす。男性アイドルグループが出た。踊れて、歌えて、カッコいい。けれど母は言った。
「これはカッコいいん?」
私は答える。
「まぁ、顔よりも踊れて歌えるみたいな、そっちで売っとるタイプやね」
「それって、どういうこと?」
「本人らのやりたい事と、事務所のやり方、あとは観客のウケ方が、ちょっとズレとる、みたいな。アレよ、チェッカーズとか、そういうところあったやん」
「ああ、なるほど。あるね。昔からおるね。じゃあ、どっかで解散やね」
「限界は来るよね」
中堅の演歌歌手が出てくる。私も言う。
「なんちゅうか、笑顔が不自然やな」
「そこはね、まだ修行が足りんのよ。こういうのは場数やから。郷ひろみとか、凄いやん。ずっと郷ひろみよ」
「たしかにね。僕は郷ひろみが、郷ひろみやなかったところを見たことがない」
紅白にぶつけられる言葉は、基本的に厳しい。すべてを棚に上げて、勝手に持ち出した定規で計る。偏見と決めつけのオンパレードだ。
昼間に母から、こんな話を聞いた。
「今年は親戚の大きな集まりがあるけど、無理に来なくてもいいから。私はね、あれが若い頃は物凄く嫌でねぇ。ひどかったんよ、今になって思うと」
「僕は子どもやったけど、なんとなく覚えとるよ。母さん、ずっと働きよった」
「そういう時代やったから。料理をして、知らんおじさんと笑って話をして、子どもらのお世話をして、大変やったんよ」
「今やったら、ないね。そういうのは」
「父さんにも言われたもんね。『今日、男は働かないから。女は仕事だけしとればいい』って」
「酷いなぁ」
「やろ? でもね、そん時は、そんなことを言われても、やる気を出したんよ。かえってね。『ちゃんとした嫁だってことを、みんなに見せんといかん。頑張ろう』って、張り切ってね。今やったら、そんなバカみたいなことあるかねと思う」
テレビには、女性シンガーが映る。
「変な格好しとるけど、これは人気ある人なん?」
「まぁ、アレよ。戸川純みたいな」
「あー、あの感じか。たしかにそうやね、その通りや。大事よ。こういう人は」
ベテランミュージシャンが映る。
「手が震えとるね。声も出とらん」
「まぁまぁ、私が中学生くらいの頃からやっとるから。私はね、こういう姿をテレビで見せられるのは偉いと思うよ」
「そういう考え方もあるね。僕は嫌いやけど」
「厳しいなぁ」
母も悪口を言う。私も悪口を言う。自由自在、論拠もなく、イイ加減に、思いついたことをそのまま喋る。けれど、どこかに確かな一線があり、それを超えることは言わない。もしも口に出したなら、たしなめる。
紅白が終わると、「ゆく年くる年」に切り替わった。今年の紅白で1番誰が良かったかを語り合う。超ベテランミュージシャンが放った「(番組に)出してくれて、ありがとうございます」の言葉が1番だった、ああいう態度は真似できない、そんな話をしていると、年が明けた。「明けましておめでとう」の挨拶をする。父はとっくに別室で寝ているから、挨拶は明日の朝に持ち越しだ。
母は言った。
「思ったより夜ふかしをしたから、もうこのまま寝るわ」
「じゃあ、僕は風呂に入ってから寝るわ」
風呂に浸かって、程よい眠気を覚える。
きっと来年も、私は母と紅白を見ながらすごすだろう。恐らく悪口をたくさん言うことになるだろうが、1年に1回、それくらいの自由はあっていいはずだ。
【短編】実家で母と見る紅白歌合戦 加藤よしき @DAITOTETSUGEN
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