エンドロール(改訂版)
@turu6
第1話
俺はテレビでは売れっ子な俳優である。
ルックスとずば抜けたトーク力で、多くのファンを持つ俺は初の主演作品である映画の試写会に参加するため、都内の映画館に向かっていた。
劇場内に到着すると周りの様子が慌ただしい。
なにかあったのだろうが、少しも気に止めずに
控え室に入る。控え室には専属のマネージャーがその場にいて、今日のスケジュールを俺に伝えてくる。「わかった。これ終わればいつも通りあそこに行けばいいんだろ」と返事をすると、スタイリストやメイク担当のスタッフが続々と部屋に入ってくる。慣れた顔と慣れた手つきが、機械的に俺を着飾っていく。鮮やかな衣装と赤いリップとは対照的にくすんだ思いを持つ俺は客にはどう映るのだろうか。
容姿と取り繕ってきた性格で生きてきた俺の周りにはいつも人がいた。ただその眼差しには’俺自身’は一度も映らなかった。両親や嫁との仲も良好だったが、どこか満たされなかった。
「そろそろお時間ですお願いします」
どうやらもう時間らしい。今日は初めての挨拶ではあったが、やることなすことはインタビューと同じ。暗い廊下を突き進むと会場が見えてきた。しかし、いつもと様子が違う。何故ならもう既に映画は始まっていたのだ。
「おいおい!どうなってるんだ。これじゃあ俺が来た意味ないじゃないか!なんでもう始まってるんだ」と言いかけたその時、俺はその光景に絶句した。見ると、俺が必死に隠してきたものが次々と映し出されていた。俺の仮初の仮面が剥がれ落ち、落胆させる光景そのものであったから。客たちはその’映画’に夢中になっていた。俺に対する期待と尊敬の眼差しは、憎悪と見限りへと変わっていく。会場のどよめきが大きくなるにつれて、何故か俺の中に高揚感が湧き、なんとも言えぬ興奮を覚えた。俺の積み上げてきたスキルや期待が一瞬で崩れ落ちる光景はこんなにも滑稽でなんて新鮮味があるのだろう。
才能が花開く瞬間は沢山見てきた。俺自身もそうであったように、若手の俳優が一夜にして注目され売れっ子になっていく過程を。
だが今日はどうやら違うらしい。
これまでのものが一瞬にして無駄になっていく。主演映画という大作を掴み取ったその栄光が一夜にして消え去っていく。いや、それよりも前に俺の何かは既に枯れていたのかもしれない。
「ははっ」
不意にも吹き出し何故か頬が緩む。それと同時に鼓動が激しく胸打っていた。
皮肉にも今日という日が1番人生の中で新鮮味を感じてしまった。
「これが俺の俳優人生の締めくくりかよ」
俺は流れるエンドロールを前にそっと涙を流した。
しかし、映画が終わると観客たちは何故か拍手をし始めた。
「おいおい冗談だろ?俺に失望したんじゃないのか」
すると、客の1人がこう言った。
「だって、貴方俳優でしょ?」
その一言で、会場の拍手の意味が分かった気がした。俺が外したと思っていた仮面は、どうやら最初から彼らのために用意されたものだったらしい。
エンドロール(改訂版) @turu6
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