やっぱりあれがいい

餅月 響子

たまごの話

 私は、いつものスーパーで食材を買っていた。


「あー、今日特売じゃないから高いなぁ。税込みで322円だって。卵の1パック」

「確かに高いね。いつも蒼汰が卵かけごはんって食べるからなぁ。すぐ無くなるし」

「あなたも食べるじゃんよ」

「そういう嫁もね」


 ゲームしていたいという姉弟を留守番させて、夫婦2人で地元のスーパーに車でやって来ていた。子供たちも前までは行く行くと喜んで言ってたのに、買い物というアクションはゲームには勝てないようだ。


「ここのスーパーじゃなくてさ、あそこ行こうよ。卵専門店」

「別にいいけど、今はもう午後だから売り切れてるっしょ」

「あー、あれ? 5パック1000円のやつでしょう?」

「そうそう。いいの?」

「それ以外も売ってるじゃん。1パック300円しちゃうけど、おいしいから」

「22円分は得するってことね」

「そういう細かい計算はしてないけどね。あれはさ、卵専門店だけあって、黄身が大きいし、スーパーの卵もおいしいけど、あっちと比べたらね……」

「はいはい。わかりました。とりあえず、他のものはこっちでいいの? 専門店には卵しか売ってないでしょう?」

「うん、そうする。野菜はこのスーパーで買った方がいいからさ」


 私はカートを押して、野菜じゃないハムやお肉コーナーをまわった。


「野菜じゃないじゃん」

「細かいこと言わないでよぉ。肉は卵コーナーに売ってないから」

「それもそうだけど……」


 夫は細かいところを指摘する。他にも買いたいって言ってるのに理解してくれない。でも、本当は分かっててチクリと言う。


「……次はさ、卵専門店でお釣り忘れないでよね!!」

「あー、思い出したくないお釣り……1200円で4パック買ってそのまま自販機の中に忘れてきたってやつ。800円が無くなったあの事件ね。ちょっと、思い出したくないから言わないでよぉーーーー!!」

「うわ、こわっ」


 そうやって、買い物の時もいじられる私だ。そもそもなんでお釣りを忘れてくるんだか、自分にツッコミを入れたくなる。今年のちょっとしたエピソードとして残ってしまった。


 思い出したくない。


――― 完 ―――

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