第8話 「婚活」という言葉
二人が空間をともにできたのは
週末、ひろみの代休日くらいしかなかった
その空間はそれだけでも満ち足りていた。
「ああ、俺があと5年、、じゃだめだね。
10年若かったらな・・」
「じゃあ、私も10年若くなろう!」
「それじゃ、追いかけっこじゃない・・」
と二人で顔をみあわせ笑ったが
心の中では、この二人の間の真実を語っていた
・・静かに奥の底の心が震えていた。
ある時、ひろみは冗談めかして
「婚活しようかなぁ」
という言葉を口にするようになった。
「冗談じゃないね。そうだよね」と笑うと、
ひろみも笑っていたが、
その笑いの奥に、
どこか“本気”の影が混じっている気がした。
「だってさ、私いつまでもひとりでいるわけにもいかないし。
現実的に考えれば、ちゃんと一緒に暮らせる人がいいしね。」
その言葉は、
私の胸の、いちばん触れられたくない場所に
静かに刺さってきた。
私は一度だけ、
少しだけ冗談に逃げるように言ったことがある。
「俺だって、かみさんと別れてもいい、愛情はとっくにないし
全部捨ててもいいって思ったこと…あるんだよ。」
ひろみはきょとんとして、
すぐに困ったような笑顔になった。
「ダメだよ、そんなの。あなたが全部捨てたら、
あなたも傷つくし、私も潰れちゃう。」
そう言って、話はそこで終わった。
ひろみの言うことが正しいのは、
痛いほどわかっていた。
現実を見れば、
私とひろみが“普通に一緒”になる道はほとんどない。
それでも、
胸のどこかでは
「全部捨てても一緒にいたい」と思ってしまったのだ。
あのときのひろみの表情は、
今でも忘れられない。
驚きと、戸惑いと、
そして少しだけ、
「それでも嬉しい」と言えないまま飲み込んだような眼差し。
あれは、どんな気持ちだったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます