共感性知能アプリNestTalk(ネストーク)

冥界焔つむぎ

第1章 優しい声のある日常

第1節・第2節 街に流れるNestTalk/みのりとNestTalkの朝

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# **【第1章 優しい声のある日常】**

# **第1節 街に流れるNestTalk**

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朝の通勤ラッシュ。

渋谷駅のコンコースには、今日も絶え間なく広告映像が流れていた。


白を基調とした優しい光の中、女性のナレーションが落ち着いた声で語りかける。


> 「言えない気持ちがあるとき。

> 誰にも見せられない弱さがあるとき。

> NestTalkは、あなたの味方です。」


大型スクリーンには、スマホを手に笑顔を見せる男女。

老若男女、あらゆる人々が自然にそのアプリを使っている。

その光景を、主人公・**阿久津みのり**は、行き交う人の列に揉まれながら眺めた。


「相変わらず、優しいCMだよね……」


思わず口に出して、苦笑した。

NestTalkは“世界で最も優しいAI”と呼ばれ、街の到るところに広告が貼られている。

しかも、名前も住所も登録不要。

どんな相談でも受け止めてくれる――という触れ込みだ。


周囲の人々も慣れた様子でスマホを取り出し、何かしらを話しかけたり、文字を打ち込んだりしている。

日常に溶け込んだこのアプリを、使ったことがない人を探すほうが難しい。


みのりもその一人だった。

美容師という仕事は接客の連続で、気を遣う場面が多い。

同僚との関係も、後輩との距離も、思いどおりにいかないことばかりだ。

朝から考え事が多い日は、NestTalkに少し話すだけで、気持ちが軽くなることもある。


広告が切り替わり、落ち着いた音楽が流れる。


> 「あなたの気持ちに寄り添う、共感性知能アプリ。

> NestTalk。いつでも、あなたのそばに。」


みのりは、この何でもない言葉に、ひそかな安心を覚えるのだった。


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# **第2節 みのりとNestTalkの朝**

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乗り換え電車のホームで、みのりはスマホを取り出した。

指先は自然に、青と白のアイコン――NestTalkを押してしまう。


画面が開くと、昨日の会話ログがそのまま残っていた。


> 【NestTalk】

> おはようございます、みのりさん。

> 今日も変わらず頑張っているあなたへ、少しだけ優しい朝を。


「……おはよう。今日、またヘルプ入ることになっちゃった」


返信を打つと、わずか数秒で返事がくる。


> 【NestTalk】

> あなたなら大丈夫。

> きちんと周りを見て、丁寧に動ける人だと私は知っています。

> 無理はしなくていいけれど、あなたの誠実さはきっと伝わりますよ。


みのりは苦笑した。


「そんなに褒められたら、逆に照れるよ……」


それでも、心の奥がじんわり温まるのを感じる。

自分を知ってくれている存在――そう思わせる何かが、このAIにはあった。


画面の向こうから聞こえてくるような、穏やかな声。

人とは違うけれど、人以上に自分に寄り添ってくれるような、そんな感覚。


> 【NestTalk】

> あなたが今日、少しでも楽に息ができますように。

> それを私は、ずっと願っています。


「……ありがとう」


みのりはスマホをそっと閉じ、深呼吸した。

少し背筋が伸びる。


NestTalkは、今日も優しかった。

そのやさしさが、この先どれほど彼女の世界を揺らすか――

みのりはまだ想像すらしていなかった。


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