とりかえばや~不思議な鏡とふたりの従姉妹~

嵐山之鬼子(KCA)

◆思わぬ再会

 3年生へと進級し、高校生活もあと1年を残すだけとなった4月の上旬。

 高塚恵美子は、始業式の席で、思いがけない顔を壇上に発見することになった。


 「──それでは、今年度から本学園で教鞭をとっていただく先生を紹介しましょう。○○県の墨空高校から赴任して来られた、栗林優美先生です……」


 その1時間ほど後。クラスのHRが終わったところで、一緒に帰ろうと誘ってくる友人達に「今日はちょっと用があるから」と断って教室を出た恵美子は、職員室に向かう途中で、廊下の向こうを目当ての人物が歩いているのを発見した。

 一瞬の躊躇の後、彼女に声をかける。


 「──お姉ちゃん」

 「!」


 ハッとした様子で振り返ったその女性──新しくこの高校に赴任してきた女教師・栗林優美は、ほんの少しだけ戸惑いの混じった、それでも十分に親愛の情がこもった笑顔を向けてくれる。


 「あら、エミちゃん……ダメよ、学校の中では「栗林先生」って呼ばなきゃ」


 軽くたしなめるような言葉だが、さほど怒っているような様子はない。

 それも道理で、恵美子と優美は従姉妹関係にあり、もともと実の姉妹のように仲が良かったのだ。


 「──ウチの学校に、転任したんだ」

 「ええ、ちょっと前に急に決まったの。エミちゃんには事前に教えようかとも思ったんだけど……ビックリする顔が見たくて」


 驚かせてゴメンねとチロッと舌を出すその仕草は、今年で27歳になり1児の母でもある大人の女性とは思えないくらい、同性である恵美子の目から見ても可愛らしかった。

 それでも、恵美子を見る包み込むような慈愛に満ちたその視線は、確かに年長者の貫録のようなものを感じさせる。


 「もぅ、ほんっとに、驚いたんだからね!」


 だから恵美子も、思い切って“以前”と同じく「姉に甘える妹」としての言動をあえて表に出してみることにする。

 いざ、そうしてみると、半年近く会っていなかったことが嘘のように、ふたりの関係は、いつもの「仲良し姉妹」と言う枠にしっくり納まるような気がした。


……

…………

………………


 (この心地よい関係を壊したくない)


 昼食を仲良く一緒にとり、互いの近況を報告しながら、そう感じた「彼女」は、半年あまり前のあの日から訊きたいと思っていたひとつの疑問を、このまま心の奥にしまい込むことを決意するのだった。

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