モンスタートランプ 〜最強への道〜

佐藤ゆう

第1話 VS関東チャンピオン 上


 新東京 龍神街――。


 千メートルを遥かに超越する高層ビル『ドラゴンズ・タワー』


 下層から上層に向けて、黒曜石で造られた【二匹の龍】が、巨大なビルに絡みついていた。

 圧倒的な迫力を漂わせるドラゴンズ・タワーの屋上では、T C Gトレーディングカードゲーム『モンスタートランプ』の世界大会の決勝戦が行われていた。


 設置された円形の闘技場の上には、2人の人物が――。

 そして2人に召喚された、ホログラム映像によって創造された『二匹のドラゴン』が空中を舞っていた。


 世界大会 最大の見せ場を映そうと、何台もの中継ヘリがビルの周りを飛びかっている。


 黒の仮面を付けた少年 プレイヤーネーム『カラス』が、自身の下僕である『白銀の竜』に攻撃指令を下す。


 咆哮を上げて白銀の竜は、邪悪なる黒竜に向けて極大のブレスを放つ。

 黒竜も闇の魔力を収束させて極大ブレスを放った。


 白と黒の超絶ブレスが激しくぶつかり合い、ドラゴンズ・タワーの屋上をまぶゆい光が覆った。


 3年後――。

 新東京都 龍神街 龍之宮中学校――。


 十二時が過ぎ、昼食を終えた3階廊下で、大柄の少年がニヤニヤと笑い、小柄の生徒を壁際に押し込んだ。


「 よう、真琴。俺とモンスタートランプやろうぜ♪ 」


 怯えながら小柄な生徒『上多 真琴』はビクビクと震え。


「い、嫌だよぉ……」


「あん? なんでだよ」


 怪訝な顔をする大柄な少年に青ざめた表情で。


「だ、だって……マサル君は……負けたらカードを獲るじゃないか……」


「にひひっ♪ 弱い奴から奪ってより強くなるためだよ」


「い、嫌だよぉ……」


 大柄な少年『前田 マサル』はイラつき、小柄な生徒『上多 真琴』に手を伸ばす。


「ゴチャゴチャ言ってねェーで、とっととやるぞォ!」


「ひいぃぃ!」


 つかもうとする手が、真琴に触れようとした瞬間――。


「 じゃあ、オレとやろうぜ 」


「「 ! 」」


 廊下の窓の外から声が聞こえ、十メートル以上ある『戦闘機』が、対空状態で3階の窓の外に現れた。


「 うおおおおおおッ! 」


 驚きのあまり前田 マサルは転倒し、後頭部を床に『ゴツン』とぶつけて転げ回った。

 戦闘機のハネの上には、中学校くらいの少年が乗っていた。

 少年は笑顔で、戦闘機を操縦するパイロットに親指をつき立てる。


「サンキュー、ジョ二ー!」


「ガンバレよ、スカイボーイ!」


 戦闘機のハネから大ジャンンして、開いた窓から廊下に着地する。

 呆然として真琴は――。


「あ、あなたは……?」


 少年は無邪気な笑顔をきらめかせ。


「大空 天空(おおぞらそら)。今日からの転校生だ、よろしく!」


 ◆


 放課後――。

 龍之宮中学校を出てすぐの路地裏で、小柄な生徒 上多 真琴は深く頭を下げる。


「 申し訳ありませんでした! 」


「ん? なんで?」


 きょとんとする天空に申し訳なそうに……。


「だ、だって、ボクのせいで巻き込んでしまって……」



 ◆◆◆◆


 ――戦闘機の出現によって頭を打って転げ回っていた『前田 マサル』がよろよろと立ち上がり。


「お、おもしれぇ……」


 ニヤリと笑い、指先でビシッと大空 天空を指差した。


「いいぜェ! おまえとモンスタートランプやってやるぜェ! 放課後、近くにある『バトルドーム』まで来なッ! そこでテメェーのカードを全部 奪ってやるぜッ! 覚悟しなッ! アハハハハハハッ!」


 豪快に笑って去って行った。



 ◆◆◆◆


 ――真琴はさきほどあった出来事を思い返して しゅんとしていた。


「そんなことよりさ……」


「え?」


 わくわくした表情で遠方に瞳を向ける。


「あそこでいいんだよな?」


 そこには、巨大ドームがそびえ建っていた。


 モンスタートランプ専用の対戦施設――通称『バトルドーム』


 ◆


「おおー! ひさしぶりだなー!」


 ドーム内に入り天空は歓喜の声を上げた。


 中では複数の対戦が行われていた。

 12の闘技場の上で、ホログラム映像によって立体化したモンスター達が戦いをくり広げている。


「え? ひさしぶり?」


 隣にいる真琴は疑問を口にする。


「ああ。オレ、3年間 心臓の病気でモンスタートランプができなかったんだ」


「えええっ!」


 衝撃な事実を明るく言われ仰天する。


( さ、3年間もモンスタートランプのブランクがあるのに、あのマサル君に勝負を挑むなんて……。もしかして天空君、ものすごく強いとか? なんとなくだけど、3年前の世界大会で優勝した、謎の少年『鴉』君に雰囲気がちょっとだけ似ているけど……まさかね…… )


 否定するように頭をふるふると振った。



「 ぎゃああああああああッ! 」



「「 ! 」」


 突然、闘技場の一つから大きな悲鳴が聞こえてきた。

 2人がかけよると――


「あ、あれは……!」


 円形の闘技場の上で、1人の少年が『四つん這い』になって泣き崩れていた。

 見慣れた姿に真琴は驚愕する。


「ま、マサル君……?」


「ううぅっ……」

 

 四つん這いで涙をポタポタと落とす前田 マサルに、対戦相手と思われる『白スーツの少年』が近づいて行った。

 そしてニヤリと見下ろし、前田 マサルの前に置かれたカードの束デッキを手に取った。


「キミの負けだね、マサル君。キミのデッキは僕が『全部』もらうよ」


「え? ――えええええええッ?」


 驚きのあまり真琴は大声をあげた。


「ふ、ふつうは、一試合で賭けるカードは1枚のはず……! そ、それなのに、デッキ全部を賭けるなんて、あ、ありえない……」


 状況に困惑する真琴に、隣にいる天空は納得したようにうなづいた。


「あいつ、全部のカードを奪ってやるとか言ってたけど、自分が取られるって意味だったのか?」


「ぜ、絶対に違いますよ! で、でも、どうしてこんなことに……?」


 混乱する真琴の後ろから誰かが近づいていく。


「それは、ボクが説明するよ」


「て、店長!」


 振り向くと、このバトルドームの経営者である『 剣崎 勇矢 』が暗い表情で立っていた。


「やあ、真琴君……。実はね……」


 店長はここで起きた出来事を語り始める。



 ◆◆◆◆


 十五分ほど前――。

 バトルドームの脇に設置された事務所の中に、4人の人物が――。


 1人はこのバトルドームの経営者 剣崎 勇矢。

 もう1人は高校生くらいの白スーツを身に着けた少年。

 少年の後ろには、ボディーガードと思われる黒服の男が2人。

 白スーツの少年は優雅に髪をかき分ける。


「このバトルドームは僕の父が買収しました。今日から僕の物です」


 さわやかに言った言葉に、剣崎 勇矢は激しく動揺し――。


「き、キミはいったい、このバトルドームをどうするつもりなんだい?」


「僕だけが使える、僕専用バトルドームとさせもらいますよ」


 そのとき――事務所の扉が『 バン 』と開き――。


「 ふざけんじゃねェー! 」


 大柄の少年が颯爽と現れた。



 ◆◆◆◆


 ――これまでの経緯を話し終えて店長は――。


「――マサル君は、このバトルドームをみんなで使わせることを条件に、デッキ全部を賭けて彼に戦いを挑んだんだ……。あの、【関東チャンピオン 伊集院 一郎】君に……」


 そしてあわれむような瞳で、闘技場の上で四つん這いで泣くマサルに視線を送る。


 白スーツの少年 関東チャンピオン 伊集院 一郎は、闘技場に上がってきた黒服の男が持ってきたカバンケースに、奪ったデッキを仕舞う。


「これで奪ったデッキは99個……」


「ううっ……」


 涙をボロボロと流すマサルを、冷たい瞳で見下ろした。


「それにしても、君……。ウザいな……。いつまでそうして泣いてるつもりだい? この……みっともない、負け犬のクズが……!」


「ううぅぅっ!」


 惨めさと屈辱感で泣き崩れるマサルの肩を、後ろから誰かが叩く。


「みっともなくないさ」


「て、転校生……!」


 大空 天空は、関東チャンピオンと向き合い。


「マサルは相手が強いとわかっているのに、このバトルドームを守るために戦ったんだからな」


 嬉しさにマサルは涙をジワっと浮かべた。

 倒すべき相手に宣言する。


「関東チャンピオン 伊集院 一郎! このバトルドームとオレのデッキを賭けて、オレとモンスタートランプで勝負しろ!」



 ―――――――――――。


 読者様。第1話を読んで頂きありがとうございます。引き続き第2話もよろしくお願いします。<(_ _)>

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