土に埋もれた

槇本大将

第1話

夢をみた。

夕焼けの太陽が燃え尽き、黒々とした闇に包まれた。

いや、違った。

なにやら狭い箱のようなものの中に閉じ込められているようだ。

その箱の中にいるせいで外の光は全く入ってこず暗闇が四肢を少しずつ冷たく齧って凍えるような冷気を感じる。

そして、始めに目がその役目を果たせずに麻痺した。

次に、耳が沈黙の音に潰された。

残るは舌、鼻、皮膚の感覚のみとなった。

ひとつづつ失われていく五感。

次は何を感じなくなってしまうのだろうかというジメッとした恐怖と早くこの場所から脱け出さないと息が詰まって死ぬのではないかという黒々とした焦りから呼吸(果たしてまだ息を吸っていたのだろうか)をとめた。

膝を曲げようと力を入れると、ゆっくりと曲がった膝が固い箱にふれる。

その時に思い出す。

泥の臭いがした。

箱の中の空気が湿ってきた。

きっと、外は雨なのであろう。

そうだ、俺は死んだのだ。

死んで棺の中で再び甦った。

死してから甦ったのだとしたら、俺はこの先いったいどうなるのか。

まさか、墓を発(あば)かれもしないであろうからこのままじっと、また再び目を閉じるときまでの時間をここで過ごすしかすべはないであろう。

気が付くと俺は目を見開いていた。

光をとらえずその役目を果たさない両目でも涙は流せるようだ。

仰向けになっている頭。

あつい水滴がつーっとこめかみにくだって耳につたった。

そして、冷たくなった。

不快な涙を流し続ける両目を思いっきり見開いて閉じる。

眉間にしわができたのを感じる。

涙は止まった。

気が付くと自身の時間を感じる感覚も死んだのを感じた。

不快な涙の水滴が消え去っているのに気付いたからだ。

涙の水滴は俺が気付かないうちに渇いてしまった。

自分ではほんの一瞬の

考えと思考の停滞だと思った停滞は、実は、数刻いや一晩なのかもしれなかった。

俺は死んでから埋められて、今度は感覚がひとつづつこうやって死んでいくのだ。


「ヤっべー」


思わずつぶやいた。

つぶやいて笑った。

そういう夢をみた。

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土に埋もれた 槇本大将 @makimotodaisuke

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