人喰いスズメ〔ホラー〕
楠本恵士
ワンエピソード・完結
学名・Passer montanus(パッセル・モンタヌス)
和名・スズメ
デートに立ち寄った公園のベンチで、雑談をしていた彼女がオレに言った。
「ねぇ、あのスズメなんだか変じゃない?」
彼女が眺めている視線の先には、スズメの小グループがいる。
「別に普通のスズメだけれど」
「よく見て、ほらっ他のスズメから餌を横取りしている、あの少し大きいスズメ」
言われてよく見ると、そのスズメは一羽だけ目が赤かった──まるで、血のように。
「本当だ、なんかあの目が赤いスズメ。気性も荒い」
さらに観察していると、目が赤いスズメのクチバシは牙が生えたような鋭い突起のギザギザがあった。
怯えはじめる彼女。
「なに、あのスズメ……いやだぁ、ジッとこっち見ている……もう、行こう怖くなってきた」
オレと彼女は、不気味なスズメから逃げるように公園から出た。
次にオレが赤い目で牙が生えたようなスズメに遭遇したのは、三日後だった。
朝のジョギング途中で、路上で二羽のスズメに襲われているカラスを目撃した。
(あのスズメだ……二羽で一羽のカラスを襲っている? スズメがカラスを襲う?)
路上でスズメに襲われていたカラスは、ギャアギャア鳴きながら飛び去り、二羽のスズメもカラスを追っていった
雑食性のカラスが、スズメを襲い捕食するコトは、たまにあるらしい……ただし、この場合襲われるのは弱ったスズメだ。
(スズメがカラスを襲うなんて? もしかして、スズメは小型肉食恐竜の子孫なのか? 先祖還りをしたスズメ?)
翌日、今度はバイトの帰り道──オレはさらに恐ろしい現場に遭遇した。
道脇の茂みの中に、赤目スズメが群がっていた。
(なんだ?)
目を凝らして観察してみると、スズメは何か動物の死骸を貪っていた──まるで肉に群がるピラニアのように。
スズメが何を食べていたのかは、死骸の毛皮模様でわかった……バイトに向かう途中にいつも見る白猫だった。
ゾッとしたオレは、背後に気配を感じて振り返る。
道路を挟んだ家の塀の上に、数十羽の赤目スズメが並んで止まり、ジッとオレの方を見ていた。
普通のスズメは赤目スズメに駆逐されてしまったのか……一羽もいなかった。
「うわあぁぁぁぁ!!」
悲鳴をあげて、オレは逃げ出した。
次の日、肉食スズメの存在がついに全国ニュースに取り上げられた。
鎖で繋がれて野外で飼われていた飼い犬が、赤目スズメの群れに襲われて、喰われたニュースに世界中で衝撃が走った。
オレはテレビのニュースを観ながら思った。
(これは、自然界からの人間に対する警告か?)
テレビやラジオでは連日に渡り。
《子供を一人で外出させないように、外出する時には大人の付き添いを》
《スズメを見つけても近づかないように》
そんな注意テロップが流された──そして、ついに人間がスズメに襲われる事件が発生した。
河原で、一人キャンプをしていた男性が赤目スズメの群れに襲われ──喰われたのだ。
救助に向かった緊急隊員も、スズメの集団に襲われ重軽傷を負った。
(生活備品を今から、買い集めておかないと)
オレと彼女は一緒に備蓄用の日用品や食料品や品薄になった鳥避けグッズを求めて、大型スーパーの駐車場に車でやって来た。
混雑する駐車場に車を停めて、大型店に向かう途中で。
近くの木に大群で潜んでいた人喰いスズメが一斉に飛び立ち、駐車場にいた人間に襲いかかってきた。
「うわぁぁ!」
「ひぃぃぃ!」
空に群れるスズメ。
誰かが叫ぶ声が聞こえた。
「走れ! 建物の中に逃げ込め!」
建物に向かって走る、人間に襲いかかるスズメ。
悲鳴とスズメの鳴き声が重なる。
あと少しで店内に逃げ込める……と、いう場所まで来た時。
いきなり、シャッターが降りていくのが見えた。
「まだ、外に人がいる!」
オレは、かろうじて建物の中に逃げ込むコトはできたが、彼女はシャッターの直前で転倒して無情にもシャッターは閉じられた。
シャッターの外から、逃げ遅れた人々の悲鳴とシャッターを拳で叩く音が聞こえた──どうするコトもできなかった。
オレは、スズメに襲われている彼女に向かって、心の中で手を合わせた。
(ごめん、本当にごめん)
窓の方からガラスを叩く音が聞こえた、見ると逃げ遅れた人たちが建物の中に入ろうと、必死にガラスに体を押しつけていた。
血まみれの彼女も、逃げ遅れた人たちと一緒にガラスを叩いている。
タ・ス・ケ・テ……チュンチュン。
窓ガラスにヒビが走って、ガラスが勢い良く割れて、大量の人喰いスズメが建物内に侵入してきた。
「ぎゃあぁぁ!」
オレを含め、逃げ場がない建物の中に逆に閉じ込められ、スズメに襲われている人々の悲鳴が店内に反響した。
『人喰いスズメ』~おわり~
人喰いスズメ〔ホラー〕 楠本恵士 @67853-_-
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