天火の下――永夜永冬の世界で、赤き瞳の魔女は太陽を盗む
@rinnoakuta
序
窓の外は、夜と雪。
それらは訪れるものでも、去っていくものでもない。
ただそこに在り、呼吸し、世界の背景を共に構築しながら、なお万物の輪郭を蝕んでいく。沈黙し、永遠に、疑う余地なく。
この世界について知っておくべきことは、たった二つ――
夜は決して終わらず、雪は決してやまない。
その他すべてのもの、神々であれ、魔法であれ、我々が歴史と呼ぶ短い記憶であれ、全てはこの果てしない黒と白の間で交わされる、取るに足らない傍注に過ぎない。
今、この瞬間は、その傍注の中でも最も取るに足らない一行かもしれない。だが、これから語る物語は、この瞬間の後に書き記されるものなのだ。
「
暖炉の中で、揺らめく炎が微かな音を立て、部屋に油絵のような暖色の光彩を塗りつけ、まるで薄い布団のように、母の懐に寄り添う幼女の体を軽く包んだ。
幼女の名は「
だからこそ、母親は彼女を「
「染染…? 聞こえてる? ママ、とっても大事な話をしてるのよ…」
幼女は何も言わず、ただおとなしく母親の胸に頬を寄せて口をとがらせ、上を見上げ、無邪気に母親を見つめた。
世間知らずの幼い顔は、純白の前髪に半分隠れ、ただ一つの水々しい目だけが、一片の好奇心を輝かせていた。
それは母親譲りの黄金の瞳。子供そのものの純粋さと無垢さを携え、小墨染の顔に咲き誇るその美しさは、黄金さえも及ばない煌めきだった。
「一つ目…絶対に一人でこっそり家を出ちゃダメよ…パパとママの許可なしに、勝手に外に出てはいけない」
母親は手を伸ばし、娘の前髪に隠れた半面を手のひらで包み込むように覆い、動物のひなをなでるよりも百倍優しい力加減で、細やかに撫でた。
まるで、娘が彼女の目にはとても脆く、ほんの少しの油断でも砕けてしまいそうに見えているかのようだった。
幼女は心地よさそうに、もふもふした二つの耳と尻尾を立て、撫でられるリズムに合わせてゆらゆらと揺らした。
「二つ目は…」
母親の声は突然詰まった。息が喉を締め付けた。
部屋が数秒静まり、ため息が一つ漏れた。無力で、何も吹き飛ばせず、何も吹き去れないため息。
母親は再び深く息を吸い、今度はそれを無理やり飲み込んだ。
「二つ目は、絶対に…、他の人に、髪で隠しているあの半面を見せてはいけない。絶対に…」
母親の動きは乱れた呼吸と共に荒くなり、撫でる手つきは快さを失い、幼女に痛みを感じさせるほどだった。
母親自身も気づいていないかもしれない。無意識の恐怖と心配の中で、この愛撫の意味は変わってしまった。もはや娘の顔を撫でているのではなかった。
必死で何かをこそぎ落とそうとしているかのようだった。
「マ…マ?」
幼女は首を振り、母親の愛撫から抜け出した。その水々しい目が放つ理解できないまなざしは、熟練の猟銃の弾丸の如く、母親の両目を直撃した。
母親は唇を軽く噛み、黙ってうつむき、もう娘を見る勇気はなく、ただ目尻でちらりと盗み見るだけだった。
突然、幼女の頬の前、半面を隠していた前髪が、母親の焦燥に震える指でかき分けられた。
母親は、まだ純粋無垢なその瞳の中に、自分自身の姿を見た。
一片の血色に浸かった自分を。
その黄金の瞳や他のいかなる瞳色とも異なる。
血のように赤い目は、この世界の禁忌だった。
赤い瞳は、この世界最大の災厄と、人々の数え切れぬ憎悪を内包している。
もし村人たちに見つかれば、絶対に…絶対に…
…
いや、大丈夫…
だって…自分の娘は、きっと無実なんだから…
彼女は、いわゆる「災厄」でもなければ、世界に災いをもたらす「魔女」でもない。
彼女はただの、自分の娘。ただそれだけ…
母親はほっと息をつき、かき上げた髪を元に戻し、そっと娘の頭をポンポンと叩いて、娘がもう眠っていることに気づいた。
そこで彼女はゆっくりと、目を窓の外へ向けた――
夜の闇に覆われた、一面の死の様に白い果てしない大地。この暗闇と舞い散る大雪は、この永夜永冬の世界で、永遠に止むことはない。
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この物語は、約七日で完結する、連続アニメのような体験です。
◆更新について◆
・本作は、アニメ1話に相当する完結性を持つ「章」単位で更新します。
・毎日20時に更新します!「章」の全話を一挙公開!(1章=約4~6話構成)
・短い「話」ごとに区切られているので、すきま時間にも読みやすくなっています。
・全七章、約三十話で第一部が完結。わずか七日間で、一つの伝説が幕を開けます。
・一章ごとに完結する物語として、読み切り感覚で楽しめますが、連続して読めば怒涛の伏線と展開が待ち受けています。
・今日七日間から、新たな“世界”の扉が、あなたを待っています。
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