諦めなかったからこそ。

源麗々

第1話

僕は40近いおっさんと化した。今頃彼女は────





もう何十年も前のことだ。僕の中では思い出となっている。だが彼女はどうなのだろう。40を目前に控えた休日の午後にふと、そんなことを考えた。



「いい人がいれば紹介してくれ」と友人に頼み込んで半年、ようやくそいつの彼女の友人を紹介してくれることとなった。



『彼女』──ミサキとの出会いは大学生の頃。僕が21、ミサキは22。一目見た時から「この人しかいない」と感じていた。僕は大学生真っ盛りだと言うのにしっかりと「チェリーボーイ」であった。そんな中であったミサキは正に「ボンキュッボン」な躯付き、切れ長の目、5センチヒールのコーデュロイブーツにスキニーパンツの装いでいちご畑に立っていた。


「なんか全部、ちょっと酸っぱーい!」

と、赤く熟れたいちごにそう述べる。桃色に輝く唇に目を奪われた。




「なんて、綺麗なんだ」



ぽつりと漏れ出た言葉は空に消えていった。



「おい、どーだよ。お前、どう思う?」

「可愛いでしょ?うちの友達。」


友人カップルがそう僕に尋ねた。


答えはひとつ、間髪入れずに言わせて頂いた。


「メッッッッチャ可愛い」





その後場所を移して近くのアウトレットへ4人で向かった。友人の彼女伝いにミサキが僕を「好み」だと評していたと知って浮き足立ってミサキへ初めて声をかけた。


履きやすいと評判のスニーカーを眺めている彼女へ向かって、「靴、好きなんですか?」と声をかけると、


「ああ〜足が大きいからスニーカーがいちばん履きやすくて」


クールな顔立ちからは想像できない可愛らしい声が鼓膜を刺激する。


─────顔も可愛くて声も可愛いのか…


一瞬呆気にとられた僕を尻目に彼女は目の前のスニーカーに目を落とす。


「私の足って25.5cmあるから、メンズサイズを選ぶとどうしても黒か紺になっちゃうの。」


自虐混じりに彼女は言った。


「足が大きくても、スタイルが良くて素敵だと思いますよ。」


僕の渾身の褒め言葉。さあ、どうくる?


「そうかなぁ…小さい子の方が似合いそうだけど?」


彼女の細くて白い指が僕の傍らを指している。脈がない、完全に。


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