自販機

古い自販機の前に君がいた。


3回お金を入れては

落ちてくるの動作をした後に、

財布の中を見て、閉じていた。


どうやら、新玉の500円が使えないようだ。


目が合った。

すぐに私らは逸らした。


私は、もう一度目を向けた。

「どうしたの?」と私は一言。

「どうもしないよ。」と君も一言。


私も、自販機の前にいた。


だから、右下にある110円の

ホットの生茶をふたつ買い、君に渡した。


「え。」と「ありがとう。」を君は呟いた。


私の目を見ていたのか、

見ていなかったのか、

分からない。

私は下を向いていたから。


蓋を開け、わずかに一口飲み込んだ。


生茶の温かさと恥ずかしさがいつもより苦かった。


それと同時に心に、

ひとつの御守りが足されたような、

気がした。

だけだけど。


だからこの日々を、

押入れの扉の裏に貼り付けた。

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