Tips: 2

[新聞の切り抜き]

「……某月某日、割波山の麓に位置する潮鳴村を訪れた者は、その静寂に戦慄したという。人家は荒れ果て、全住民の姿が██。奇妙なことに、土着の信仰とされる『咲那美大社』へ続く道には、季節外れの彼岸花が……。死臭は漂わず、ただ波の音だけが空虚に響いていたという。」


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[伝承]

「角出の夜、海蝕洞が満つる時。巫女の魂は神へと還る定めなり。されど、その心に濁りあらば、潮は逆流し、恵みは■■へと転ず。古き伝えに云う。蛇姫の背に刻まれし因縁、洗い流せぬ時は、村全土に赤き花が咲き乱れ、山は哭き、海はすべてを……」


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[日記]

「○月十五日。今夜は満月。なのに、空は墨をこぼしたように黒く、海鳴りがこれまでにないほど激しい。山の方から聞こえるのは風の音か、それとも誰かの……。神官様は儀式は成功すると仰ったが、私の胸騒ぎは収まらない。庭の隅に、見たこともないほど真っ赤な██花が、一夜にして芽吹いていた。」


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[壁の落書き]

「あいつの胸から、花が生えている。赤い、赤い花だ。根っこが心臓にまで食い込んでいる。助けて、誰もいない。皆、笑いながら花になっていく。潮が、潮がここまで上がってきた。■■■様、どうか、お許しを……。」


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[手紙]

村外れで見つかった、婚姻を控えた娘の手紙:『……お母様、私は怖いのです。墓所にある「切」の祠で因縁を断つ儀式を終えましたが、背中の墨がまるで██のように蠢いている気がしてなりません。角出を控えたあのお方の視線が、私の魂まで切り刻もうとしているようで……』


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[手記]

汚損の激しい巫女見習いの手記:『……咲那美大社の分社、その中庭に佇む「流」の祠。浄化の水を湛えるはずのその場所が、今朝は真っ黒な墨で汚れていた。何度洗い流しても、底から██の鱗のようなものが浮き上がってくる。八千代様が抱える「因縁」は、もはやこの小さな祠で流せるほど、██ではないのかもしれない』


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[壁の落書き]

廃村の井戸の縁に刻まれた殴り書き:『……出られない。厄を溜める「淀」の祠はもう満杯だ。守護の神は死んだ。井戸の底から這い上がってくるのは、村を守る力ではなく、我らが捨てた██の残滓だ。お前の██が、この暗闇の中で笑って……』


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[本]

『郷土史・潮鳴の習俗』抜粋

……この地では古くより、婚姻前の娘が「自家の因縁」を落とす儀式が不可欠とされた。社の巫女、別名『蛇姫様』がその背に墨を彫ることで、他家へ嫁ぐ者の穢れを代償に引き受けるのである。巫女は五年の任期を終えると「角出」に向かうが、その██については部外者が知る術はない。ただ、潮騒が止む満月の夜、割波山の方角を凝視してはならぬと████に記されている。


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[業務日誌]

「咲那美大社・御用日誌(明治初期)」

本年度の巫女、選定より六年。角出の刻限迫る。例の如く、もう一人の候補であった娘は神官として残るが、此度の巫女は少々……情緒が不安定な様子が見受けられる。特に「神隠しの沢」の境界付近での目撃例が多く、掟に背く不埒な輩との接触を危惧せざるを得ない。万一、咲那美之命への██が汚されることがあれば、その咎めは村全体に及ぶであろう。


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[噂話]

「村の老婆による聞き書き」

……あぁ、あの晩のことは思い出したくもねぇ。空が割れるような嵐だった。夜見路の先、海蝕洞から這い出してきたのは、神様じゃあなかったんだ。潮が満ちるたびに、あの子の背中の蛇が、村中を飲み込んでいくようで。心臓から████花が咲いた男の死体を見て、わしはただ逃げるしかなかった……。


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[噂話]

「……あの山の大社には『蛇姫様』と呼ばれる娘がおる。嫁入り前の女子の因縁をその身に彫り込み、肩代わりするんやと。娘の背には蛇のような墨跡がのたうち、村中の穢れをすべて吸い取っておる。だが、もしその娘が人として……を抱けば、溜まった因縁が■■となって村を呑み込むという言い伝えもある」


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[噂話]

「高台の『響』の祠に近づくと、耳の奥で波の音が聞こえるという。山の中にいるはずなのに、まるで海の中に引きずり込まれるような……。村人はそれを神の託宣だと言うが、あれは同化を誘う██の声ではないかと、婆様は怯えていた。」

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